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うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
1,300
オフィスは元々夏場は冷房がしっかりと効いている。だからストールやらカーディガンが手放せなくて、今日もしっかりと羽織っていたのに。
数日前に聞いた粘度の高い声が再び耳に届いた瞬間、体感温度が数度下がる。キーボードに乗せていた指先が震え始めているのも気のせいではないだろう。
「どうしましたか、伊藤さん」
精一杯の笑みは、せめてしっかりと虚勢を張れるように。そんなわずかな意地を持たせた表情で彼の顔に視線を当てれば、こちらを全て見透かすかのような双眸と出会し、あっという間に怯みそうになる。
「この感じだと、大豆生田さんはまた会議ですかねぇ」
彼の個室と、そばにある会議室をわかりやすいほど丁寧に視線が行き来する。あらかた、事前にスケジューラーで彼の予定を見ているだろうに。
「ええ、すみません。何かご用でしたか」
「そうなの」
今日は引き下がらず要件を伝えてくるらしいと理解し、体が少しだけこわばる。
「私がお伺いしましょうか。それとも直接大豆生田さんにお話しされます?」
「うーん、秘書さんにお願いするわ」
白々しく顎に手を当てて考える様子を見せた後、一歩こちらに踏み込んでくる彼からは、何事か推しはかることもできやしない。
「会食のね、予定を組んでほしいんですわ」
「…会食」
彼から告げられた依頼は、予想もしていなかったもので。
「それは、どなたの…」
「そうね、大豆生田さんと、ボクと、あとあなた」
「…わたしも?」
「あー、あとボクの秘書さんも足しておいてもらおうかな」
だから4人ね。
贅肉のついた指を立ててご丁寧に数字を教えてくれるけれど。
「…秘書が同席するって珍しいですね」
「んーまあたまにはいいんじゃないかな」
オッサン2人でお喋りしても面白くないしさ。若い子いた方がいいよね。
ええっと…伊藤さんの今の秘書は、と脳内を一生懸命探る。確か、新卒2年目ぐらいの若い大人しめな女性だったように思う。
相変わらず自分以外はコマの位置付けのようで。心の奥底にドロッとした澱がたまり始める。
「確認してみますね」
「よろしく頼むよー」
ついでに場所もいいとこ押さえといて、と。
至極自由に言いたいことだけを述べて再び去っていく伊藤さん。
どうしよう…会食って…。
豆さんも、あちらの秘書さんもいるなら大丈夫だろうけど気は進まない。伊藤さんはなぜ豆さんと会食をしたいと言い始めて、そして秘書を巻き込むのは何故なんだろう。
フロアの扉を開けて去っていく彼を見届け、ふと自分が金縛りにあったかのように立ちっぱなしだったことに気づく。
この話をどうやって伝えよう、と思案しながら椅子に腰掛け、心細くなってふとパートナー会議室の方に視線を動かす。
「っ」
ほんの気の迷いで動かした視線だったけれど、その先にはブラインドの一部を指で押し下げてこちらを見つめる豆さんのそれと容赦無くぶつかる。
いつからみていたんだろう。どうして。
何もやましいことはしていないのに、後ろめたさを感じて手のひらがじとっと汗ばむ。
私があまりに困った顔をしていたからだろうか。すぐに彼の視線から鋭い光は消え去り、優しい眼差しに変わっていく。
ガラスを隔てた数メートルは遠く、会話ができる距離ではないのに、なぜか全てが伝わったような錯覚を覚えて安堵する自分に驚く。
急いで会釈して顔をパソコンに戻す。これ以上見つめていると、知られたくない感情まで暴かれてしまいそうで。
「大丈夫?」
見つめたパソコン画面に、まさかの追い討ちが届く。思わず肩を揺らしてしまったけれど、見られていないだろうか。
そっと視線を目を戻してみても、もうそこは綺麗に整えられたブラインドのみで。
「大丈夫です」
どのみち報告するなら口頭がよい。
会議を邪魔したくもないので当たり障りのない回答を返す。まだ心は落ち着かないけれど、一言のメッセージだけで安堵できたのだから、大丈夫という返事もあながち間違いではないかも。
「強がらなくていいのよ」
あとで聞かせてね、と。
続いたメッセージが、何よりその後の私の仕事のペースを乱したことは、言うまでもない。
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