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#恋愛
水無月 京
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長時間ブロックしていた会議がようやく終わったらしい。ブラインドがするすると上げられていき、終わりの気配が見えたと思えばすぐに扉が開かれてパートナーたちが出てくる。
豆さんに限らず、パートナーは基本エネルギッシュな人たちだ。見た目も若くて、仕事も趣味もアクティブで。
そんな人たちが、一様に疲れた表情で会議室を後にするのだから、ちょっと面食らう。各々が自席に散っていく中で、革靴が立てる足音と、遠慮のないため息が空中に広がってゆく。
「やっだなー疲れたなー」
そんな静かに重苦しい空間を、一気に叩き壊した声は。
会議室から最後に出てきて、うーんと伸びをしながら歩く豆さんだ。敢えてのアクションなのは手に取るようにわかる。
「ちょいタバコ〜」
と、飄々と彼もフロアを後にするけれど、スーツの背中側に少し皺が寄っていて、会議の長さと彼の疲労を彷彿とさせる。
社長選は全パートナーの投票により決定するが、セクター長選は、基本的にそのセクター配下のユニット長たちの合議で行われる。
もちろん誰がセクター長になるのが会社にとってベストなのか、会社としての視点も必要なので、社長やボードメンバーが多少介入はするらしいけど。
だから、本来なら5人で好き勝手にじゃんけんでもして決めれば平和なのだ。社長選が関わってこなければ、ね。
今回は、社長選のほうが先に執り行われ、次期社長が決定する方が早い。だから、候補者2名のどちらが社長になるかで、セクター長選にも影響が出てくるというのが大方の見方だ。
自分に投票すれば、セクター長の座や、その他今後の業務上の便宜を図るという、常套ながらも薄汚い手法で成り上がろうとしている候補者がいるらしい。
そんな手段を使えば、何かしらのレギュレーションに引っかかりそうなものだが、そこは文章に残さずまことしやかに言葉巧みに。
尻尾を掴ませない技だけは誰もがしっかりと持っている。
先ほどの会議のメンバーの中に、社長候補からすでに息のかかっている人間がいるだろう。このセクターと関係ない部門でも、政治的に共謀する人間はたくさんいる。
つまり、豆さんの周りには敵味方が入り乱れているのだ。
ただし、敵味方の名札は一切つけない状態で。
豆さんは、地位に固執するタイプではなさそうで、自分がセクター長になりたいと言っているのを聞いたことはない。
社長選で次期社長が決まれば、セクター長はほぼ自動的に決まる。その状況をよしとするのかは、よくわからなかった。
「どっちでもいい、とか言いそうではあるな」
いつも通りの空気を取り戻したフロアで、私もお供のカフェラテを飲みながら呟く。一方曲がったこと自体は嫌いなので、合理的でない選出プロセスには普通にキレるような気もする。
まして、それが誰か他人の思惑通りという状況なんだとしたら尚更。
「やっぱり、私彼のこと全然知らないな…」
豆さんに限らずだけど、秘書はパートナーの最もそばにいる人間でありながらも、そこには丁寧に幾重もの境界線が敷かれていて。肝心な情報は知らない、掴めないことがほとんどだ。
今までならあまり気にしなかったこの状況が、今はもどかしい。
仕事の情報を共有して欲しいのではなくて。
もっと彼の内面を深く知りたい、という根源的な欲求で。
「どうしよ…バレたらすごい嫌がられそ」
この気持ちを開示する勇気はないけれど、また、押さえ込む別ベクトルの勇気もありはしない。悶々とする気持ちが胸の内を焦がしていくけれど、皮膚の上を通り抜けていくのは調整された涼しい風で、その気温差だけで風邪をひきそうだ。
「弓家さん」
悶々とする私の背後から声がかかり、彼の気配を察せなかった自分を叱咤する。彼の前で気を抜くと、怠慢だと怒られそうで。
「わあああすみません」
「え、やだ何。どしたの」
後ろめたさからつい大きめの声を出せば、それがかえって良くなかったようで豆さんはドン引きしている。そりゃそうか。
引き攣った顔にすみません、と謝罪をする。おそらく懸案事項であろう法務との件についてだなとあたりをつけて…
「弓家さん、今日18時半にここ出るよ」
口を開こうとした刹那、豆さんに先を越される。何の話題だっけそれ、と咄嗟に記憶を漁れば、豆さんはニコッと笑う。
「メシ行くの、今日でしょ」
「…そうでした」
そんな大事なことを忘れるなんて私はポンコツか。