コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。お兄様と再会した喜びもつかの間、私達姉妹は最悪の知らせを受けました。もちろん私達が望んだことなので、恨めしく思うつもりはありません。ですが、やはり覚悟していたとは言え現実として突き付けられると辛いものがあります。
「お父様が……」
『そんなっ……お父様……』
レイミの悲しげな声が響きます。
「伯爵は、おそらく賊と思われる死体の傍で倒れていた。場所は一回の書斎の扉の前だよ。まるでなにかを護るようにね。残念ながら書斎は焼け落ちていたから、何を護っていたのかは分からない」
お兄様の言葉を聞いて私は思い当たるものがあります。私が脱出できたのは、書斎にある地下道への入り口を使ったから。
もしかしてお父様は、私達姉妹が地下道を使う可能性を考えて……最後まで、護ってくれたんですね。
『お父様……』
「……時間を置こうか?」
「いえ、構いません。私がお話を聞きます。お母様はどの様に?」
「伯爵婦人の遺体は見付かっていない。しかし彼女の書斎跡にはたくさんの血痕が残されていた」
「……そうですか」
あの日、お母様は私達姉妹を叩き起こして逃がし、お父様を助けに行くと火の中に飛び込んでいきました。あの規格外のお母様がそう簡単に討たれるとは思えませんが。
『書斎に?お母様は書斎に居なかった筈ですが……』
レイミが暗い声で疑問を出しました。
「焼け跡に遺された痕跡しか分からない。あの伯爵婦人が易々と討ち取られるとは思えないけどね」
「同意します」
『私もそう思います』
「お兄様、他に情報はありませんか?」
「私が知っているのはそれだけだよ。その後直ぐに焼け跡は片付けられて屋敷が再建されている。私が調べられたのはそれだけだよ。すまない」
「いえ、お兄様に感謝を。これで私達はお父様を弔うことが出来ますから」
出来れば生きていて欲しかった。けれど、この世界は意地悪です。皆生きていたなんて幸せな展開は用意されていませんでした。
「やはり時間を置こう。また明日、この時間に来て欲しい」
「大丈夫です、お兄様。どうか続きを」
「いや、明日にしよう」
『お姉さまっ……』
レイミの声が聞こえます。心配してる?
「お嬢様、明日にされるべきです。今は心を落ち着かせるのが先決」
ガウェイン辺境伯まで。私は大丈夫なのに。
「休みなさい、シャーリィ。そんな顔では私も話すのが辛いよ」
「えっ……?」
私は自分の顔に触れてみました。これは……頬を伝う液体……涙……?
私……泣いてる……?
シャーリィは無表情のまま涙を長し、自分自身でその様に驚いていた。漠然としたものではなく、ハッキリと父の死を突き付けられ、内心とは裏腹に彼女は大きなショックを受けていたのだ。そしてそれは彼女自身が自覚しない涙に現れたのである。
「無理もない、自分の父親の死を容易く受け止められる人間なんかそうはいないだろう。ラウゼン、明日のセッティングを頼む。それと、シャーリィの仲間達に事情を伝えてくれ」
「御意」
「聞きたいことはたくさんあるけど、今日は休むと良い。レイミも何処に居るのか分からないけど、今ゆっくり休むんだ。時間が必要なら、いつでも知らせてくれ。私は君達に合わせる」
『ありがとうございます、お兄様。さあ、お姉さま』
「……安心しました」
「シャーリィ?」
「私も、ちゃんと泣けたんです。これで泣けなかったら、別の意味で驚いていました」
シャーリィはハンカチで涙を拭うと姿勢を正す。
「お兄様、醜態を晒してしまい申し訳ございません。お言葉に甘えさせていただきます」
「ああ、今はゆっくり休んでくれ。必要なら宿を手配するが?」
「それには及びません。お兄様、また明日お会いしましょう」
「わかった。辛かったら無理をしないようにな」
ユーシスが退室してベルモンド、ルイスが部屋に通される。シャーリィの涙を見てルイスが激昂するハプニングは発生したものの、ラウゼンが事の次第を説明して一旦解散となる。
~アークロイヤル号 船長室~
「つまり、お嬢の親父さんが亡くなってるのは確定って訳か」
シャーリィはベルモンド達に事情を説明し、ベルモンドがそれに答える。ただし、ユーシスのことはまだ伏せている。身分の事もあり、扱いに関して慎重になるしかないのだ。
「そうです。覚悟はしていましたが……やはり事実として突き付けられると辛いものがあります」
「大丈夫か……?シャーリィ」
心配そうに見つめるルイス。
「不覚にも感情を制御できませんでした。割り切ったつもりなのですが」
「お嬢はまだ一七だぞ。簡単に割り切られたら親父さんも悲しむさ。今晩くらいは泣いてもバチは当たらねぇよ」
「ベル……」
「ルイ、お嬢についていてやってくれ。後の事はやっとく」
「わかった、ベルさん。ほら、シャーリィ。部屋に戻るぞ」
「……甘えてばかりですね、私」
「たまには甘えて年相応な姿を見せてくれ。じゃないと、お嬢の歳を疑いたくなるからな」
シャーリィとルイスを部屋に戻したベルモンドは、黙っていたエレノアを見る。
「今夜はお嬢を表に出すわけにはいかねぇ。たまには護衛らしいことをしないとな」
「護衛のやることじゃないみたいな気がするんだけどねぇ?」
肩を竦めるベルモンドに苦笑いを返すエレノア。
「問題をお嬢に近付けないのも仕事さ。それで、やっぱり『闇鴉』の連中か?」
「多分ね。何人か私達を監視してる奴等がいたよ。動きが素人丸出しで、逆に罠なんじゃないかって疑ったくらいさ」
「見るからに下っ端だったからな。それでも、長引けば腕の立つ奴を連れてくるだろう。今のお嬢は不安定だ。そんな奴等を近付けるわけには、な」
「それなら、いつでも出港できるようにしておくよ。明日の商談にシャーリィちゃんが出られるか分からないけど」
「ルイが傍にいて妹さんとも話せるんだ。ちゃんと立ち直れるさ。だが、黒幕相手には容赦がなくなるな。居場所を奪って家族をバラバラにした相手から父親の仇になったんだ」
「だねぇ」
「明日の護衛は任せる。夕方までに戻らなかったら、出港してくれ。お嬢の安全が最優先だ」
「それならベルモンドが傍に……いや、だから離れるんだったね」
「悪いな、お嬢には適当に頼む。下手な真似はさせねぇから、身辺警護だけは頼むぜ」
「あいよ。気を付けて、ベルモンド」
「おう」
ベルモンドは武器を片手に夜の『ファイル島』へ消えた。『闇鴉』の企みを潰すために一人暗躍を始める。
だが、それは徒労に終わる。何故ならば、『闇鴉』は海へ出たのだから。