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#妄想
memi(めみ)
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とう🈂️🔥
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あ、まずい。なんて気付いたのは、夕方頃。なんとなくテレビをぼうっと眺めながら、夕食の準備を始めないといけないって頭の遠くで思っていた時だった。
生きてきて、二十数年。発症して、十数年。悲しいかな、人間はどんなに酷い現実を目の前にしても置かれた環境に適応しようとしてしまう。
そう、まず必要なのは薬。これ飲んどくと症状が出るのを先延ばしできるよーってやつ。予定日より一日早いヒートだけど、大丈夫。なんとなく嫌な予感がして昨日の夜にちゃんと飲んでる。
次に、ええと……巣?いや、一度つくってしまうと何もできなくなるから後回しにしたいところだが……。
あとは、なんだろう。あぁ、連絡しておいた方が良いか。でも何て送ったら良いんだ。お前のΩにまた発情期が来ましたーって?明け透けに言ってしまうとそんなもんだ。とっても馬鹿げてる。俺のキャラじゃない。絶対に送りたくない。
まぁ……でも……現実は、現実だしな……。
「あぁ、もう……早く帰って来いよぉ……」
ソファに置いてあるクッションに、情けない独り言と一緒に顔を埋める。
嫌なんだ、この時間は。甘えたくなって、ふわふわして、心細くなる感じ。誰でも良いわけじゃない。想い人の顔を浮かべて、そいつがまた満足そうに笑ってるのを思い出して……体温が上がる。
今日はまだ、帰って来ないから。一人の時間をどう耐えるか、それを考えなくてはいけないのだ。
ずくずく疼く腹の奥が、卑しいΩの本能を突きつけられているみたいで、気持ち悪い。何かで気を紛らわそうと、夕食の準備に取り掛かることにした。
時刻は、五時を少し回ったところ。
火照る身体に鞭を打って、俺はソファから起き上がりキッチンへと向かった。
やった。俺は頑張った。献立を考えるのも面倒くさくて、具材を切って煮込むだけのカレーにしてやった。ついでにスパイスの匂いでだいぶ気が紛れた。かなり良い調子だ。
ちらりと時計を見て、しまって。まだ一時間しか経過してないことに、軽く絶望してしまう。
「うぅぅぅ〜〜〜……」
ダイニングチェアに腰掛けながら、手には携帯。送り先は、想い人である、α。
あと何時間だ。今はまだ撮影中だし、その後で打ち合わせがあるって確か言ってたっけ。だとしたら今日はテッペンを越えるか。だよな、じゃあまだ送れない。いや、保険をかけておくべきか……。
やばい。結構身体があつくて、頭も上手く回らない。
あ、なんか送っちゃった。
『きた』
本能と理性が必死に戦って出た一言。伝わってくれるな、でも伝わるだろうな、なんて思っていたらすぐに通知が飛び込んでくる。
『はやくね?』
変換ぐらいしろよ。
『ごめん』
『謝んな』
あーはいはい。あなたはそういう人ですよね。
『待てる?』
核心を突く言葉に、手が止まる。
言えば帰って来てくれんの?そんなこと言って迷惑かけたくない。でも、ちゃんと待っていられるほど、この苦しみに耐えられるわけもない。
どう答えても正解じゃない。体調、仕事、性格。どれかを犠牲にして、無理やりにでも答えを出さなければ。
『ま』
続きを入れようとして送ってしまった。
『どっち?』
それはそうだ。でもそんなの俺だって聞きたい。分からない。
ぐらりと重い頭をテーブルに乗せて、ごんって音が鳴る。痛い、なんて言っても仕方ないから、ぐっと奥歯を噛み締めるだけ。
寂しくなって、頸の噛み跡に触れてしまって、余計にまた寂しくなって。会いたいとか、抱き締めてほしいとか、それ以上のこととか、色々考えてしまう。
ふらりと立ち上がって、安心を求めて歩き出す。
『待ってて』
裏返した携帯。その画面が光っていたことを、俺は気付けなかった。
あつい。ほしい。頭の中がそれしかなくなる。
彼の匂いがたくさんある場所は他にもあるのに、俺は脱衣場で座り込んでいた。今朝彼がシャワーを浴びてから家を出たこと、その服がまだ洗濯されてないことを、知っていたから。
目当ての物を見つける。首元がヨレてくたくたになった、寝巻きのTシャツ。その首元に顔を埋める。両腕で目一杯抱き締めて、安心する。
「……勇斗」
そこに居ないのに、呼んでしまう。
匂いだけで満足できると思っていた。それが大間違いだった。もっとほしくなって、もっと切なくなって、なんでここに彼が居ないんだろうとつらくなってしまう。
指先で噛み跡を確かめて、爪を立てる。肌が傷付くからやめろと怒られるけれど、そこをカリカリと刺激すると、あの噛まれた夜のことを思い出して嬉しくなってしまう。さらにぎゅうっとTシャツを掻き抱いた。
こんなんじゃ足りない。
ふらふらと覚束ない足がまっすぐそこへ向かう。塞がれた扉をぐっと開けて、一歩踏み出す。
勇斗専用の、ウォークインクローゼット。
「ぁ……やば……っ」
ぶわりと飛び込んでくる勇斗の匂い。思わず手に持っていたシャツで鼻を覆ってしまい、それが逆効果だったと気付くのにも、思考が遅れる。
部屋の中心でへたり込んで、目を閉じる。
ヒートの時にだけ敏感になる鼻は、香水や柔軟剤に混じっていても勇斗の匂いを強く感じ取る。ただこの空間に居るだけでαから抱き締めてもらえてるような感覚になって、嬉しいのに、くすぐったい。
宝物みたいに抱え込んだ今朝脱いだTシャツだけでは物足りない。でも見るからに高価そうな服には手が伸ばせない。部屋中にビッシリと並んだ服をキョロキョロと見渡しながら、ふと思い付く。
タオルとかハンカチだったら、大丈夫かな。
部屋の隅にある縦に伸びた棚を見つけて、おそるおそる近付いた。鼻を頼りに一番下の引き出しを開けると、やっぱりだ。目当ての物がすぐに見つかる。
「っ、ごめん……」
罪悪感から小声で謝罪し、過去のイベントグッズで見本用に貰ったタオルをひとつ取り出した。日常的に使われているところを何度も見ているし、肌触りはかなりくたっとしていた。
鼻を埋めて、勇斗がこれを使っていた時のことを思い出して、吸って、ふっと息を吐く。知らず知らずのうちに口角が上がり、これもぎゅうっと抱き締めて宝物を増やす。
もう少し、いいだろうか。あ、手が滑って二つ出しちゃった。もう変わらないか、二つも三つも四つも……。
あれよあれよという間に、全てのタオルを出し切って空っぽになった引き出しの中。自分の周りには宝物があふれ返っていて、どれを嗅いでも勇斗の匂いがして、寂しくてしくしく泣いていた心がぱっと晴れやかになる。
嬉しい。あと、楽しい。どんどん勇斗が増えていくみたいだ。
ころりと横になり床に広げたタオルに埋もれて、にまにま笑う。すっかり一人遊びを覚えてしまい、時計の針が飛ぶように進んでいたことを、俺は知らない。
「んで、こうなっちゃったわけね」
「んえ?」
床いっぱいに広げて、山のように積み上げたタオルの中から、顔だけ出して呆れ顔の勇斗をじっと見つめる。
「あれ……?なんで勇斗が居るの……?」
「だいぶ撮影巻いて、打ち合わせまた今度にしてもらったの!仁人が寂しがってると思って!」
ほら、と見せられた携帯の画面。時刻は九時前。
ん?この部屋に入ってから三時間……?
「やばい。遊びすぎちゃった」
「だろうね。なんでタオルばっか集めてたの。今日は服の気分じゃなかった?」
「んー?そうでもない。ほら、勇斗の服ここ」
ずりずりとタオルの山に埋もれたTシャツを取り出した。
「俺のね、宝物だから一番下にしてた」
勇斗が目の前に居るのに、本人の前ですんって匂いを嗅いで見せて、ふふんって笑って。勇斗は顔を手で覆って、少し俯いた。
「それ、ね。俺が朝脱いだやつね」
「タオルも勇斗の匂いするし、ここも安心して好きなんだけど……今日はこれが一番だった」
「そっかあ。仁ちゃん気に入ってくれたんかあ」
「わっ……!」
こんもり積まれたタオルの山から俺の身体を掬い上げて、胡座をかいた勇斗の上に乗せられる。
タオルや服なんかと全然違う、脳を直接刺激される勇斗の匂いに、一瞬で酔ってしまう。
「はや、とっ……」
「えらいね。ちゃんと待てたね、仁人」
首元に顔を埋めて、名前を呼んで、呼ばれて。さっきまで夢中で遊んでいたタオルたちなんか比じゃない。この男自身が一番強烈で、一番欲しくなる。
ふと勇斗の手が首筋を撫でる。歯型のあるところで、手が止まった。
「仁人、ここ赤くなってる。寂しくなって掻いちゃった?」
指先でなぞられ、ぴくんと反応する俺の身体。
「怒ったぁ……?」
「怒んないよ。寂しい思いさせてごめん」
「ん……」
「上書きしよっか」
抱き締められていた身体がぐるりと反転して、目の前から勇斗が居なくなる。背中にある体温、腹に置かれた手、首筋にかかる勇斗の吐息。
節張った手の甲に重ねた己の手の小ささに驚く。同時に、頸の噛み跡にかぷんと優しく噛み付いた、勇斗の歯。
ぶわりと、一瞬で全身に血液が回る。俺は勇斗に支配されているんだと、錯覚する。
「あぁっ……!」
たったそれだけなのに。嬉しくて、気持ちよくて、泣いてしまう。
「ん、じんと……痛い?」
そう言いながらも勇斗は、甘噛みをやめない。
噛み跡の周りもかぷかぷって何度もされて、ぷっくりした唇で薄い皮膚を食んで、抱き締められた勇斗の腕はずっと強いまま。俺を逃す気なんて無いんだって、その行動が物語っている。
俺は小さく首を振る。痛いんじゃない。だから、もっとしてって、そう言いたくて。
俺の意思を正しく受け取った背後の勇斗が、くすりと笑う。耳元で、はぁっと息を漏らす。
「……かわいい。俺の匂い、すき?」
熱がこもった勇斗の掠れた声と、ぶわりと増した濃いフェロモン。それにあてられてくらくらしながらも、頷いた。
「ぁ、すき、はやとも、すきっ」
「ははっ、素直でかわいいね。仁人は俺をメロメロにさせて、どうしたいのー?」
「う?めろ?」
「んー?俺となにしたい?」
「はやと、とぉ……?」
回らない頭を必死に回して、その間にも勇斗はまた頸に噛み付いてくるから、もう何もかも分からなくなってしまう。
「まだいかないで。もっと仁人と話したい」
いくって、どこに?勇斗の言いたいことはよく分からない。けど、とりあえず縦に首を振る。
噛み跡に勇斗の唇や歯が当たってる間は、どうしてもそこに集中してしまう。そばに居るはずの勇斗の声が、まるで水の中で聞いてるみたいな感覚になる。
だから、俺が勇斗の声を聞き漏らしてしまうから、いっぱい話さないでほしいのに。今日の勇斗は俺を焦らしたいみたいだ。
「今日は仁人なにしてたの」
「んっ、きょ、はぁ……ぇと、掃除して……っ」
「うん」
「テレビみて、っぁう……ぁ、ごはん、つくっ、たあ」
「カレー作ってくれたんでしょ?玄関開けるとね、仁人とカレーの匂いすんの。なんかおかしいよな。でも仁人のカレー、俺大好きだから嬉しい」
「っそぉ……かれぇ、したぁ……のっ」
俺が話してる時は頸を食んで、自分が話す時は耳元で囁いて。どのタイミングも落ち着けなくて、腹の上に乗っかった勇斗の手にカリカリと爪を立てるしかできない。
「でも、仁人。忘れてることあるよ」
「ぅんっ……?」
「炊飯器のスイッチ押し忘れてたでしょ。まだお米のままだった」
「ぅええっ?うそ……んぅ、ごめっ……!」
「謝んないで。寧ろ、仁人必死だったんだなぁ、可愛いなぁってなった」
「どこ、がっ……?」
「ん?だって、俺のこと待ってる間に作ったんでしょ?メッセージ来たぐらいの時間だから、ちょうどしんどい時じゃない?“待ってる”か、“待てない”か。送りたくていっぱい悩んで、多分頭がそればっかりになってたんかなーって」
饒舌に話す勇斗の言葉は、ぜんぶ当たりだ。何の反論もできない俺に、また噛み付いた。
今度は強く、強く、歯を立てて。
「あぅっ……!」
「ほんと……理性が強くて可愛いわ、仁人」
ぐらぐらして、ふわふわして、酔ってしまって。
ころりと寝かされた床の上には、俺が撒き散らした勇斗のタオルが散乱している。すぐに追ってくる勇斗とタオルでサンドイッチだ、なんてトんだ頭で嬉しがる。
「これ、おれの、巣……?」
「……うん。じょーずにできたね」
勇斗が居て初めて完成する、俺の巣。中心で笑う俺のαが、噛み締めるように俺を見下ろしている。
「仁人、ベッドじゃなくていいの?」
「うぅ……?」
「あっちのが俺の匂いいっぱいするよ?」
「んんん……」
「それどっちなの」
ちゅうっと軽く首筋にキスしながら、勇斗は呆れた声で言った。
「ベッドはぁ……はやとがいっぱいで、おれおかしくなっちゃうもん……」
何のためにわざわざ寝室を分けてるのかって、俺のヒートのため。俺の匂いが混ざった部屋なんかで愛されたくない。でも、自分が前後不覚になってわけ分からなくなってしまうのも、こわい。
「……っ、もうおかしくなっちゃえよぉ」
そんな臆病な俺の気持ちを溶かすような、あまいキスをくれる。はしたなく勇斗の唾液を欲しがって、麻薬に似たそれを飲み下して、多幸感でまた思考が白む。
「じんと、いっぱい愛させて……?」
色を乗せた勇斗の声。ぐじゅって、下半身が濡れていくのが分かる。はくはくと音にならない息は、肯定も否定も伝えられない。
でも、答えなんて決まってる。
はやく、お前の檻に俺を閉じ込めて。俺だけに愛を囁いて。身体と心に刻み付けて。
世界でただひとり。俺だけの勇斗に、なってよ。
「ずうっと……俺は仁人だけのものだよ」
あれ、声に出していたのか。なんて考える間もなく、勇斗が俺の唇をあまく吸って、舌を攫って深いキス。何度も角度を変え、どんどん溺れていく。
ふわりと浮いた身体。俺を抱えてどこかへ向かって歩き出した勇斗は、意地悪く笑っている。その顔も好きだなって思っていたら、優しく降ろされたのは、勇斗のベッドの上。
やばい、トんじゃう。もうほんとに、これが最後。
「何も考えないで。俺だけ見てて。俺を、受け入れてね」
俺と勇斗の姿を隠すように、覆い被さる掛け布団。四方八方、勇斗の匂いやフェロモンから逃げられないこの空間。
勇斗に愛された俺だけの特権だ。
するりとシャツの隙間から入り込む勇斗の大きな手が、汗ばんだ肌をゆるりと撫でていく。興奮で揺れた足の間に勇斗は身体を滑り込ませる。もう片方の手が俺の手と重なり、ベッドに強く押し付けられた。
早く俺を食いたいって、全身で勇斗が訴えかけてくる。
「すきだよ、じんと」
欲に濡れた声が鼓膜を揺らし、抱えてるものすべてを手放すように……あまえた声でαを誘う。
これで俺の気持ち、ぜんぶ伝わればいいな。
「はやとぉ……?」
「ん?」
「おれも、すき」
「……ん、ありがと」
目を細めた勇斗の笑みを最後に焼き付けて、俺は目を閉じた。
ゆっくりと重なった唇。最初は啄むように、次第に、溺れていく。
カケラほど残っていた俺の理性が吹き飛んで、ただαに愛されることを目的としたΩの本能が、俺を支配していった。
長い夜が、はじまる。
コメント
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全ての言葉の言い回しが、ほんとに大好きです。今まで読んだオメガバ作品の中で一番最高です😭ほんとにありがとうございます!!

表現が本当に素敵でめおさんの紡ぐ言葉が大好きです!素敵な作品をありがとうございます!
めおさんの描くオメガバが拝見できるとは思っておらず…嬉しすぎて2度見しました…😭😭😭 可愛いΩ💛…ありがとうございます🙏