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青空の下で、私は新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。とても清々しい。早朝の空気は、まだ誰にも汚されていない感じがするから大好きだ。
大好きなんだけど……。
「優ちゃんって、本当に朝が苦手だよね」
私を『優ちゃん』と呼んだその女子の名前は花園華子。幼稚園からの大切な幼馴染だ。
そんな彼女と肩を並べて、今は学校に向かって歩いている。
死んだ魚の目をしながら。
「……うん、まあね。低血圧だから、私。って、華ちゃんは知ってるか。幼馴染だもんね」
「それはもちろん知ってるんだけど、あまりも……。ねえ、生きてる?」
幼馴染から生きているかどうか確認されるような女子高生なんて、きっと私くらいのものだろう。
そりゃ朝から元気にすごせたらいいなとは思う。が、生まれ持っての体質なんだから、こればかりは仕方がない。
「大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて。学校に着いたらちゃんと寝るから安心して」
「ちょっと待って! いや、すごく待って! 学校って寝る場所じゃないから! 勉強する所だから!」
「分かってるよそれくらい。だから教室の机で寝たりなんかしないよ。保健室のベッドってさ、結構快適なんだよこれが」
深く『はあっ』と華ちゃんは溜め息をついた。理由は訊かない。私の言動や行動が原因だろうから。さすがに長い付き合いとなると、そこら辺のことはなんとなく分かる。雰囲気や感覚や相手の表情から。
「……優ちゃんって可愛いのになんでモテないのかなってたまに考えてたんだけど、理由がちょっと分かっちゃったかも」
「分かっちゃったって、今さら? 私なんかがモテるわけがないし、そもそも、モテたいとも思ってない」
「いやいや。諦めない方がいいよ? 優ちゃん可愛いんだからもったいないって。もっと女子力をアップさせればいけるって!」
「いや、だから諦めるとかじゃなくて興味がないんだってば。色恋沙汰とかに。それに私、愛想悪いし。しかも、うん……」
華ちゃんの胸の膨らみを確認。そして私の胸をチラリと見て溜め息をつく。確かに性格云々のせいでもあるだろうけど、まあ、これじゃあねえ。
「どうしたの優ちゃん? さっきよりもさらに目が死んでるんだけど」
「そうだね、よりダメージがね。持たざる者の気持ちなんて分からないだろうなと思ってさ」
それを聞いて小首を傾げる華ちゃんである。
で、先程から『優ちゃん優ちゃん』と呼ばれているけど、一応念のために。私のフルネームは祖月輪優子という。
かなり珍しい名字らしく、間違えて呼んでしまう人が後をたたない。面倒くさいから改名したいけど、それが簡単にできたら苦労はしないわけで。
「あ! 今気付いたんだけど、優ちゃんがアクセサリーを付けるだなんて珍しいね」
「ん? これのこと?」
首から下げていたそれを華ちゃんに見せると、「うん」と頷いた。
別にこれはアクセサリーでも何でもない。そんな洒落た物を身に付けるような私ではない。ただの若草色の勾玉だ。
「この前、婆ちゃんからもらってさ。肌身離さず身に付けておきなさいって言われて」
「そうなんだ? そういえば優ちゃんって神職の家系だもんね」
「まあ、そんな感じ。別に大した理由なんかないけど、一応ね」
嘘である。
これを渡されたことに関しては、歴とした理由があるのだ。説明するのも面倒くさいし、それに、あまり話したくないんだ。その理由を。思い出したくもないから。
「それってやっぱり、『この前のこと』と関係あるの?」
ビンゴ。まさにそれが関係しているんだ。この勾玉を身に付けるに至った理由は。
私の家系は先程、華ちゃんが言った通りだ。その中でも、女性の場合は男性よりも不思議な力を授かることが多い。
そして私もその例に漏れず。縁結びの神徳人とでも言えばいいのか。端的に言うと、人と人との縁を結ぶことができるようになってしまった。一応巫女だし、私は。だから婆ちゃんも、この勾玉を渡してきたのだ。
また能力を暴走させないために。
「すごいよねえ優ちゃんって。皆んなの恋を成就させることができちゃうなんて。恋のキューピッドってやつ? おかげで私にも彼氏ができたし。全部優ちゃんのおかげなんだよ。すっごく感謝してる!」
そう。この一件から始まったんだ。華ちゃんから恋の相談を受けてから、私はそれを婆ちゃんに相談した。私の親戚の女性のほとんどが巫女であり、縁結びを専門としているから。
そうしたらやり方を教えてくれた。簡単なことだった。恋を成就させてあげたい相手――私の場合は華ちゃん――の顔を思い浮かべながら強く念じるだけ。本当にただ、それだけ。
だから、まさか翌日に華ちゃんが意中の殿方と恋仲になるとは思ってもみなかった。初めての試みだったからどうせ失敗するに決まっていると思い込んでいた。だけど、成就した。一発で決まるだなんてあまりに予想外だったけど。
「どう? あれから彼氏とは仲良くやってる?」
「うん! すっごく仲良くやってる! ラブラブだよ! だって彼、毎晩のように私のことを――ウフフフッ」
『毎晩』という言葉が非常に気になる。いかがわしい情事にでも耽っているのだろうか。女子高生という身でありながら。
でも、言わなかった。
だって、こんなにも幸せそうな華ちゃんを私は見たことがなかったから。
【続く】