次の日。
馴染みのある、目覚まし時計特有の高い音に杉山は目を覚ます。窓を打ち付けるような雨の音が、今日は聞こえないことに気がついた。
「…ん、?」
布団から身を起こし、素足のままペタペタと床を歩く。カーテン越しに見える暖かみある色に少しの期待を乗せて、杉山は窓の外をあらわにした。 部分的な水たまりが目立ちはするが、そこにある天気は晴れそのもの。眩しさに思わず目を細めたことも、晴れという事実を裏付けていた。
「すっげぇ…晴れてる………。」
もしかすると、山田のてるてる坊主が効いたのかもしれない。…いやまさか。今度は静かに、独り言を零す。部分的に残った水たまりを見て、そういえばと昨日の誘いを思い出した。
「今日はアイツらとサッカーか〜〜…」
ほんの一瞬だけよぎった親友の顔を誤魔化すようにして、杉山は顔を洗いに洗面所へと歩き出した。
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一通りの支度を終えた杉山は、いつものように大野と集合する。しかし昨日の今日だ。 軽い挨拶を交わしてからは、お互いに無言のまま重苦しい 空気が流れていく。本当ならば、今頃楽しく会話をしながら歩いている筈だった。
昨日のテレビ番組で放送されていたサッカーの試合について話をしようとも考えたが、形にはしなかった。
杉山だって、大野を嫌っているわけでは断じてないのだ。昨日の大野の呼びかけを無視したことにも、少なからず罪悪感を感じている。
ただ、明らかにおかしい大野自身の様子を、当の本人が何も話してくれないこと。
大野の親友は自分で、自分の親友は大野だと、
ずっとそう思っていた。疑わなかった。
だからこそ、ごまかし続ける大野を見て、
少しくらい相談にのらせてくれたって良いではないかと、仲を否定されたような、裏切られたような気持ちに感じたのだ。
自分はそんなに頼りない、力になれない存在なのかと悲しくもなった。
他でもない大野自身が今まで通りを望んでいる癖にして、こちらが手を差し伸べても取ろうとしないこと。力になろうとするも受け取ってもらえない事実の意味が、 杉山には同仕様も無く分からなかったのだ。
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(杉山…何も喋らないな。)
まるで作業かのようにして隣を歩く親友の姿と、それについていくだけの自分の在り方に孤独感を覚えるのは、大野にとって簡単だった。
だがしかし、この環境を生み出したのは他でもない大野 自身であるということ。 頭では理解出来ているが、なら何ができるんだと問われると困る。
ー自分には何ができるのだろう。
ー自分は何をするべきなのだろう。
昨日、学校で口を利いてもらえなかったという事実に加えて、いつか起こるかも分からない悪夢を思い出す。
悪夢とは、クラスの全員に自分の病気が目の当たりになってしまう、そんな夢。
こんなにも何かを嫌だと思ったのは、もしや初めてではないか。今現在、らしくない妄想の怖さに怯えているのだって先程と同じ。
大野自身である。
全てを伝えたら、杉山とはもう一度親しい仲に戻れるだろうか。いや、戻ってみせる。
杉山なら、きっと分かってくれる筈だ。
今はひたすらに、待つしかなかった。
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