テラーノベル
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お庭(ゲーム)での賑やかで賑やかな一日を終え、VR装置(冠)を外したわたくしは、優雅に身支度を整えて一階のダイニングルームへと向かいました。我が東雲家では、夜の夕食のひとときを家族全員で揃って過ごすのが昔からの嗜みとなっております。
洗練された美しいカトラリーが並ぶ食卓。
上質なシャンデリアの柔らかな光の下、お父様とお母様、そしてわたくしの三人で、美味なるディナーに舌鼓を打っておりました。
スープを上品に口に運んでいたお父様が、ふっとお優しい目をこちらへ向けられましたの。
「奏。先日贈った『セブンスマスター』……あの『別荘体験キット』は、楽しめているかい?」
お父様のお問いかけに、お向かいのお母様も優雅にお手を添えられて微笑まれました。
「ええ、奏。お庭での新しい娯楽は、あなたのお気に召しましたかしら? お勉強の息抜きになれば良いのだけれど」
「まあ、お父様、お母様」
わたくしは胸の前でそっと両手を合わせ、心からの感謝を込めて満面の笑みを浮かべましたの。
「とっても、とっても素晴らしい『お庭』でございますわ! このような素敵なおくりものをくださって、本当にお礼の言葉もございません」
「おや、そうかい。それは良かった」
お父様は嬉しそうに目を細められました。
「開発元の経営陣から『最新の技術を集結させた素晴らしいバーチャル空間です』と薦められてね。広大で美しい大自然を静かに堪能し、日頃の学業の疲れを癒やすにはぴったりだと思ったのだよ」
「ええ、お父様のおっしゃる通りですわ! 緑豊かな木々や小鳥のさえずりが本当に心地よくて……わたくし、あの広大な大自然の中で、毎日のお勉強(宿題)を済ませておりますのよ!」
わたくしが弾んだお声でご報告いたしますと、お父様とお母様は一瞬ポカンとされ、お互いにお顔を見合わせられました。
「……ん? お勉強かい? 奏、あの体験キットの空間で……宿題を?」
「ええ! 大自然の爽やかな風を感じながら解く『高度微分積分』や『古典文学』は、格別の捗りを見せますの。それに……」
わたくしは「ふふっ」と可憐に微笑み、お二人にお伝えいたしました。
「お庭には、とっても親切で熱心な指南役(ガイド)の方々がたくさんいらっしゃいますのよ。わたくしの身の安全や個人情報を、それはもう過保護なほどに守ってくださいますの。……時折『悪即斬!』とお叫びになって、敵を物理的に消し飛ばしてくださるサムライ様や、マーブルちゃんのお道具を仕立ててくださる綺麗なドレスのお姉様もおいでですわ」
「「……悪即斬……???」」
お父様とお母様のお首が、同時にコテンと傾きましたわ。
「あ、あのね奏……開発元からは『静寂と癒やしのプライベート空間』と聞いていたのだが……そんなに賑やかなガイドの方々がいるのかい……?」
「ええ! 皆様とっても仲良しで、わたくしの『開き直り』の姿勢にも快く『姫の御心に従う!』と全肯定してくださいますの。昨日など、正式な『ギルド』というお茶会の結成もお約束いたしましたのよ」
お母様がお上品にハンカチをお口元にあてられ、少し困惑されたように目をご開帳なさいました。
「まあまあ……ギルド……? 奏、あなたは本当に社交的でいらっしゃいますのね。……ですが、お友達やお知り合いのご連絡先(個人情報)などは、軽率にお教えしてはなりませんわよ?」
「ご安心くださいませ、お母様。わたくしが何も言わずとも、画面の端に映った学校のロゴから学友の皆様が勝手に気づいてくださいましたので、隠す必要など初めからございませんでしたわ!」
「「…………?????」」
お父様とお母様の思考が、静かに停止されたご様子でした。
「まあ、お父様、お母様? お料理が冷めてしまいますわよ」
わたくしが上品にナイフとフォークを手に取りますと、お父様は咳払いをひとつして、どこか遠い目でおっしゃいました。
「あ、ああ……そうだな。奏が楽しんでいるのなら……それが一番だ。うん……『最新のテクノロジー』とは、実に奥が深いものだな……」
「ええ、本当に素晴らしいお庭(セブンスマスター)ですわ。今夜もお食事の後は、皆様とマーブルちゃんとの優雅なお散歩に行ってまいりますね」
「……ああ。怪我だけはしないようにな(※VR空間ですが)」
お父様とお母様の温かい(そして少し困惑気味の)眼差しに見守られながら、東雲家の夕食は本日も優雅に過ぎていくのでした。
家族との優雅な夕食を終えたわたくしは、本日も楽しみにしていた「お庭(セブンスマスター)」へとログインいたしました。
まばゆい光を抜けると、そこはいつもの『アルカディア』の中央広場。
「ワンッ!(プルプル)」
「まあ、マーブルちゃん! 本日も愛くるしいお姿ですこと」
足元で可憐に震えるマーブルちゃんをそっと抱き上げ、kagerou様に教えていただいた手順で配信を開始しようとした……まさに、その時でしたの。
「――ねぇねぇ、君、噂の『かなちゃん』でしょ〜?」
広場の影から、テラテラとした派手な装飾の服をまとった、見慣れぬ男性プレイヤーがぬめっとした笑みを浮かべて忍び寄ってまいりました。
ネームプレートには【Ore_Sama】。
「あら? ごきげんよう。わたくしに何かご用かしら?」
わたくしが上品にお辞儀をいたしますと、Ore_Sama様は嫌らしい手つきで前髪をかき上げ、ぐいっと顔を近づけてまいりましたの。
「ネットのまとめ動画で見かけてさぁ! リアルでも本物のお嬢様なんだろ〜? 直感でピンと来ちゃってさ! 今度リアルで二人でお茶でもしない? 連絡先交換しようよ〜。 LINEとかインスタやってるでしょ? 俺が美味しいお店連れてってあげるからさ!」
「まあ……?」
リアルの連絡先……? お茶……?
わたくし、SNSは一切嗜んでおりませんし、見知らぬ男性とお茶など、東雲家の嗜みとしてあり得ませんわ。
「申し訳ございません。わたくし、そのようなご連絡先は持っておりませんの。それにお見知りおきのない方とのお茶は遠慮させていただいておりますわ」
「えぇ〜固いこと言わないでさぁ! 減るもんじゃないんだから教えてよ〜! ほら、ちょっとあっちの静かな路地裏で話そうよ!」
そう言って、Ore_Sama様がわたくしの腕へと強引に手を伸びてきた――その、刹那!!
**「「「「――貴様ぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」」」」**
**ドドドドドドドドドドドッ!!!!**
地響きとともに、広場の四方から凄まじい威圧感と殺気が爆発いたしましたわ!
「kanaちゃんからその汚い手を離せやぁぁぁぁぁっ!!」
重剣を構え、般若のような相形で一番に躍り出た**kagerou様**!
「この身を挺してもkana様とマーブルちゃんを守るバイ!!」
空から黒竜とともに地砕く勢いで落下してきた**m@rio様**!
「私の手掛けた天使のお洋服に触ろうなんて万死に値しますわ!!」
仕立て用の巨大ハサミ(※超高性能武器)を振りかざし目を血走らせる**Rico様**!
「ひっ……!? な、なんだお前ら……!?」
突如現れたトップランカーたちの異常な殺気に、Ore_Sama様が腰を抜かしてガタガタと震え始めました。
ですが――そのお三人様よりも速く、光すら置き去りにする速度で「それ」は動きましたの。
**ザァァァッ……!!**
無音の疾風。
朱色の袴を翻し、Ore_Sama様とわたくしの隙間に一瞬で割り込んだのは、他ならぬ**Natuki様**でした。
Natuki様のお顔からは一切の感情が消え失せ、その瞳は地獄の深淵のように冷たく澄み切っておりました。
カチャリ、とカタナの鯉口が切られる静かな音が響きます。
「な、なんだお前……離れろ――」
「――死して教えを乞うが良い」
**ズシャアァァァァァンッ!!!!!**
閃光。
広場全体が眩い斬撃の光に包まれ、Ore_Sama様は悲鳴をあげる暇すら与えられず、一瞬でポリゴン(光の粒子)となって空へと爆散していきましたわ!
街の安全地帯(セーフティエリア)のシステムすら力ずくで突破するかのような、圧倒的で容赦のない一撃。
刀を静かに鞘へと納めたNatuki様は、朱色の袴を風になびかせ、重厚で絶対的な低音ボイスを広場に轟かせました。
「――不浄なる不審者、一刀両断。**悪即斬!! 悪即斬でございますぞーーーっ!!**」
「だから街中でプレイヤーを即死させるなと言っとるやろーーーっ!!」
kagerou様の全霊のツッコミが広場に虚しく響き渡りましたわ!
「速攻でリスポーン地点に送られたわ!! 運営に通報されたらどうすんねん!!」
「構わん!」とNatuki様は微動だにせず、わたくしの前で至高の美しさとともにひざまずかれました。
「kana様に不躾な牙を剥く『出会い厨』なる外道……このNatukiの刀が存する限り、存在の一粒子たりとも許さぬ! 悪即斬こそが、我が正義!!」
「いや正義の規模が物騒すぎるんじゃ!!」
『悪即斬キタアアアアアアwwwwww』
『出会い厨、秒で肉片すら残らず消滅して草』
『保護者勢の集結スピードが光速で草』
『Natukiさんの「死して教えを乞うが良い」ガチトーンで震えたww』
『お嬢様を狙う不審者は全員即死のシステム(物理)』
コメント欄が大爆笑と「悪即斬! 悪即斬!」の弾幕で大荒れになる中、わたくしは胸を撫で下ろし、ふふっと可憐に微笑みました。
「まあ……皆様、わたくしのために真っ先に駆けつけてくださって、本当にありがとうございます。Natuki様のお手際も、とっても見事でしたわ」
「――姫の御心に従う!」
「botの切り替えも早いなコンチクショウ!!」
「……くぅん(プルプル)」
膝の上のマーブルちゃんが可憐にあくびをし、横ではmira様が「出会い厨のプレイヤーID特定……ブラックリスト登録完了……ッ!」と高速でログを打ち込んでいる。
不審者を一瞬で全自動(&物理)で排除する最強の親衛隊に見守られ、わたくしとマーブルちゃんの「お庭(セブンスマスター)」での平和で優雅なお散歩は、本日も完璧に守られたのでした。
コメント
1件
「お庭」の話に家族が困惑しつつも温かく見守る雰囲気、すごく好きです。お父様とお母様が「悪即斬……?」と首を傾げるシーン、思わず笑ってしまいました。そしてNatuki様の圧倒的悪即斬と、kagerou様のツッコミの絶妙な掛け合いがたまらないですね。お嬢様を守る親衛隊の結束力、頼もしいやら微笑ましいやら。次回も楽しみです!