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記憶に蓋をした。
自分の中で笑っていた彼は俺が殺したも同然で、こんなことを十年間も隠していた。友人にも家族にも絶対に言えない。言ったら最後、失望され、誰からも忘れられた人になる。
『清心。本当に、もう俺に会いにきてくれないの?』
掠れた声。真っ暗だった視界が純白の光に照らされる。
「え……」
気付けばまた、何もない真っ白な世界にいた。
ここは夢のような楽園でも、鬼が蔓延る地獄でもない。特別な剣が現れることはないし、助けなきゃいけないお姫様もいない。
小さな少年がいるだけだ。
〝ここ〟は白露の、隔絶された世界。
現実を拒絶したのは白露自身。その彼が、今自分の前に立っている。中学時代の制服を着て、あの無邪気な笑顔を浮かべている。
そうだ。彼は俺を憎んでいる。死刑執行は近い。
『俺のことを忘れて、現実で好きな人と幸せになるんだ。いいなぁ……。清心は強いよ。本当に変わらない。昔と一緒』
違う。
『話したいことがあるんだ。また必ず会いに行く……だから待っててくれ!』
声が出ているのかも分からないが、叫んだ。頭の中のみ響いてる自分の声。白露は俯いたまま踵を返した。もう笑ってない。
『来なくていいよ。また俺のことを忘れて、今度こそ幸せになればいい。……ほら、迎えがきてるよ』
迎え……?
意味がわからず、白露を追いかけようとした。だけど後ろから腕を掴まれる。まったく気がつかなかったけど、誰かが後ろに立っていた。
ゆっくりと振り返る。後ろにいた“それ”は……俺と同じ顔をしていた。
「うわああぁぁっ!!」
歪んだ笑み。鏡を見てるようだが、それは間違いなく自分だった。
────闇。
『ねぇねぇ秦城。知ってる?』
“自分”は二人いる。
そっくりさんの話じゃない。現実に生きる自分と、精神世界に生きる自分。確かに独立した自分が存在がする。
何かがきっかけで分裂して、同じ世界に来てしまうことがある。そう□□は言っていた気がする。
じゃあ……俺がこの世界へ来るようになったから、この世界の俺が現実へ迷い込んでしまったんだろうか。
幾つもの馬鹿げた憶測が浮かび上がる。確かな回答になる前に意識が途切れた。