コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
地下室の扉がきしむ音を立てながら開いた。セリオとリゼリアが慎重に足を踏み入れると、そこは広々とした空間になっていた。石造りの壁には古びた燭台が並び、長い年月を経てなお、その威厳を保っている。
「これは……随分と手の込んだ造りね」
リゼリアが壁の魔法刻印を撫でながら言った。
「貴族の館にしては、地下がやけに大きいな。まるで……」
セリオが言いかけたその時だった。
ゴゴゴゴ……ッ!
突如、地下室の奥から強烈な魔力の波動が放たれた。空気が震え、壁に刻まれた魔法文字が淡く輝き始める。
「何だ、これは……っ!」
セリオが思わず身構える。まるで生き物のようにうねる魔力が空間全体を包み込み、黒い霧となって天井へと昇っていく。
「……封印が解けたのかしら」
リゼリアは眉をひそめながら、地下の奥に目を向ける。そこには、一対の巨大な扉があった。
「何かが……眠っていた?」
「ええ。そして今、目覚めかけているみたい」
リゼリアが慎重に歩みを進める。セリオもそれに続くが、近づくにつれて足元が重くなっていくのを感じた。
「……普通の魔力じゃないな」
「ここに封じられていたのは、ただの魔道具や遺物じゃなさそうね」
リゼリアがそう言った瞬間——
ズンッ!!
圧倒的な魔力の奔流が解き放たれ、地下全体が光に包まれた。
※
——魔王城・エルミナの間。
「……ッ!?」
魔王城の玉座に座っていたエルミナが、突然顔を上げた。
彼女の紅い瞳が揺らぎ、周囲の空気がぴりつく。まるで何かが覚醒したかのような、異様な波動が魔界全土に広がっていた。
「……今のは、何?」
彼女は玉座から立ち上がり、ヴァルゼオに視線を向ける。
「フン……俺も感じた。随分と濃い魔力だったな」
壁にもたれかかっていたヴァルゼオが薄く笑う。その目には、わずかに興味の色が浮かんでいた。
「この距離でも感じるほどの魔力……」
エルミナは玉座の前に進み、宙に魔法陣を描く。黒紫の光が揺れ、魔界の地図が浮かび上がった。そして、ある地点が強く光を放っているのを確認する。
「……魔界の辺境、あの古い館……」
エルミナの表情が険しくなる。
「あの館に、これほどの魔力を秘めたものが眠っていたとはね……」
ヴァルゼオが口元を歪めた。
「滅びた魔族の館など、普通の魔族は見向きもしない。となると……」
「セリオの仕業、ということかしら」
「面白くなってきたな。セリオのやつ、また何か厄介なものを掘り起こしたんじゃねえのか?」
「可能性は高いわね……」
エルミナは鋭い瞳で魔力の波動を探りながら、次の手を考える。
「……放ってはおけない。何が目覚めたのか、確かめに行くわよ」
彼女の命令が下り、魔王城の影が静かに蠢き始めた。