テラーノベル
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※出すかどうか迷いましたが新キャラ出します……。
教室の空気が、わずかに──“張り詰めた”。
ドアが開く音はなかった。
けれど誰もが、その存在に気づいた。
窓際に座る遥でさえ、わずかに目線を動かした。
“それ”が来たのを知っていた。
足音は重くない。だが、異様に静かだった。
靴が床を擦る音さえなく、ただ「空気」が移動するように歩いてくる。
──椿 蓮司。
学年全体でも名前が知られているが、教師すら深く関わらない。
「支配者」などという安っぽい呼称では足りない。
彼は、“壊すことに慣れすぎた手”を持っていた。
「……で?」
低く、柔らかい声。
遥の前に立ち、しゃがむ。
指先が、遥の髪に触れる──わずかに乱れた髪を撫でて整えるように。
「……今日は何して遊んでたの?」
まるで、弟に話しかけるような声音だった。
でもその「優しさ」は、誰もが知っている。
──それが“処刑の合図”だということを。
「べつに。……ちょっと話してただけ」
遥の声はかすれていた。
だが、目を逸らさなかった。
「ふぅん」
蓮司は笑った。
そして、遥の制服の前ボタンを、上から三つ外した。
誰も止めない。
誰も笑わない。
皆が、“静かに”見ていた。
「なにそれ、新しい見せ方? ちょっと、やりすぎじゃない?」
誰かが冗談めかして言う。
蓮司は応えず、ただ遥の首元に指を滑らせ──喉仏をなぞる。
遥の身体が微かに震える。
「今日は……どこまでいく?」
蓮司は遥の目を見て、まるで愛しそうに尋ねた。
“命令”ではなかった。“選ばせている”ような口ぶり。
──それが一番残酷だということを、遥は知っている。
(また、選ばされる……)
どれを選んでも、傷つくようにできている選択肢。
従っても、逆らっても、結果は同じ。
「……どこでもいいよ」
遥はそう言って笑った。
“演じる”。
“見せる”。
“煽る”。
そのすべての裏に、日下部への視線が、一度だけ、通り過ぎた。
(──見てるか?)
見てろ、と言うように。
目を逸らすな、と。
蓮司は立ち上がった。
遥の顎に指を添え、そっと顔を上げさせる。
「おまえさ、もうちょっと“泣く”っていう表情、練習した方がいいんじゃない?」
優しく言って、笑った。
その瞬間、誰かの笑いが弾けた。
空気が、再び“通常運転”に戻る。
日下部は動けなかった。
遥の震えも、笑いも、拒絶も、諦めも──
そのすべてが“演出”だったとしても、
──それを止める力を、もう彼は持っていなかった。
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