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私は包丁を持ったまま母親に質問をした。
「あの女の子の名前、なんですか?」
すると怒りを含む顔と声で女の子の母親は私にこう言った。
「…なんでお前みたいなクソガキに教えなきゃならねえんだよ!!」
私はその言葉に更に腹を立てて向けていた包丁を女の子の母親の首元すれすれに当てて言った。
「私、女の子のことが大好きなんです。結婚だってしたいし、ずっと一緒がいいんです。幸せにしてあげたいし。」
女の子のことを思うだけで心が暖かくなる。胸にあったもやもやも、頭のぐるぐるも、この苛立ちも薄らいで、消えていく。
「愛する人の名前を呼べないなんて冗談じゃない」
私は膝立ちで女の子の母親を見下ろした。すると女の子の母親は渋々答えてくれた。
「…あいつの名前”みらい”だよ」
「ひらがな?漢字?」
「美しく輝くって書いて”みらい”」
「美輝ちゃん…ね」
この人はもう用済みだ。
私は首元にあった包丁を下ろした。そしたらそのまま母親の腹部に思いっきり刺した。女の子の母親は刃物で刺された鋭い痛みと、自分の腹部が抉れた恐怖で叫んでいる。腹部からは、肉と包丁の間を血が流れ、包丁には血がくっついている。
私は叫び声がうるさくて、女の子の母親の口元を左手で塞いでそのまま手の力で押し倒した。その勢いを殺さず腕を振り上げ喉に思いっきり刺した。
女の子の母親は私の手を退かそうとしていたけれど上に乗っかり体重をかけている私の手を退かせるはずがなかった。
女の子の母親は咳き込み、血を吐いていた。その血が私の左手にべっとりとついている。
「どうして美輝ちゃんの幸せを奪ったの?どうして幸せを壊したの?どうして美輝ちゃんを裏切るようなことしたの?ねえ」
私はそう質問した。答えなんてハナから求めてない。
首元のラインになぞって血が流れてくる。それにつれて女の子の母親は足の力や手の力がなくなっていくのがわかった。
そして、完全に力がなくなった。
「……すぐに殺してあげただけ感謝して欲しいんだけど」
私は独り言を言い、次は女の子の父親の方を見た。
父親の方は虚ろで、叫び声はあげないと思ったけれど、一応手で口を塞ぎ、母親と同様にその力で後ろに倒した。そのまま喉元に包丁を刺した。母親と違いゆっくりと刺した。
叫ばないで欲しいとはいえ、なんの反応もないとつまらないから。
でも、虚ろな目でどこか遠いところを見つめるだけ。私が目に映っていないどころか痛みも分からないのか、暴れることも、叫ぶこともない。咳き込みも、血を吐きもしない。完全に上の空なんだろう。
「…つまんな」
私はぼそっと呟いて喉元に刺さった包丁を抜いた。
でも一応は腹部にも包丁を何回か刺した。それでも血は流れているけれど、息をしないくらいになると刺すのをやめた。
美輝ちゃんが不幸になった全ての元凶には、もっと苦しんで欲しかったけれど、苦しむこともなにもなかったのが、私には皮肉のように感じた。
包丁と手には血がついているけれど、服にはついていないようで良かった。
右手は少しだけついているくらいだけれど、包丁と左手にはべっとりくっついていた。
とりあえず台所の水道で手と包丁を綺麗に洗った。きっと、これで気づかれないと思う。
私がそのまま公園に戻ると美輝ちゃんが私に気づき、心配そうに走ってきた。
「だいじょうぶだった?」
目に見えて心配そうにする美輝ちゃんに私は言った。
「大丈夫だったよ!」
私が笑顔でそう答えると美輝ちゃんは安心したように言った。
「よかった…ぁ、わたしのおなまえ、わかった?」
「うん!美しく輝くって書いて”みらい”だって!」
「そうなの?じゃあ、わたし、みらいだねっ!」
女の子とそう楽しそうに話をした。
でも、まだ私にはやることがあるんだ。これをやるのが、1番大切なんだ。
「美輝ちゃん、またここで待っててくれる?」
「え?なんで?」
私が言うと美輝ちゃんは寂しそうに行ってきた。
「私、家に帰ってまだやることがあんだ。やることやったら戻ってくるからさっ!」
そう言うと渋々といった感じで行かせてくれた。
「ありがと美輝ちゃん!すぐ戻るね!」
美輝ちゃんに手を振ると美輝も手を振り返してくれた。美輝ちゃんのためにも、絶対に終わらせないと。
私は公園を出て、家に向かった。今は丁度お母さんが男の人と一緒に、布団で寝ている頃だと思う。
家の扉を開けて、靴を脱ぐ。そして、ゆっくりと静かにリビングに来た。
気づかれないように鞄を床にゆっくりと置いて、包丁を取り出そうとした。
「何やってんの、お前」
後ろからお母さんが話しかけてきた。
「まだ帰ってきていい時間じゃねえだろ」
髪を掴もうとするお母さんを避けて包丁を取り出し、お母さんに向けた。
「は?ちょ、お前冗談やめろって」
笑いながら茶化すお母さん。その瞳は不安を映していた。内心焦っているんだろう。そんなお母さんを他所に私は淡々と言った。
「冗談じゃないよお母さん。お母さんは私に何したか覚えてないの?」
私はお母さんが何か言っていることを無視して言った。
「機嫌いい時は機嫌いいけど、そんなの本当に少ないでしょ。機嫌悪いときばっかりだよね。機嫌悪いとき、お母さん私に何したか覚えてる?」
「何…って……」
私は狼狽えるお母さんを他所に言い続けた。自分の気が晴れるまでずっと。
「殴ったり、叩いたりしたよね、お母さん。お母さんも美輝ちゃんのお母さんと同じなんだよ」
「は?みらい?」
「女の子の名前」
美輝ちゃんの母親は美輝ちゃんを発散道具と言っていた。自身の子供だと思っていない。それはきっとお母さんも同じだ。
「お母さんも、私のこと発散道具って思ってるんでしょ」
「っ……」
「お母さん」
「…な、に?」
「男の人」
「は?」
「また殺したの?」