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――再度琉月は詳細に話した。
この件の裏の存在を。だが狂座の情報網を以てしても、存在が掴めない事を。
誰もが俄には信じ難かったが、少し考えれば納得がいった。
“その者は狂座の創始者で在るがゆえ、狂座を裏の裏まで知り尽くしている事に――”
なら掴めないのも、ある意味当然だ。狂座の裏をかいて行動しているのだから。
狂座への影響は、何も今回だけではない。以前から世界各国でエリミネーター達が、同様に行方不明となっていた事が琉月より明らかにされた。それも目立たぬよう緩やかに、自然を装いながら。
嘲笑うかのように、確実に進行していく魔の手。
そして今回、狂座の中核が所在する日本。其処の主要にまで手が伸びたという事は――
「現在、恐らく彼等は日本を中心に潜伏しているでしょう。そして次の狙いは――」
琉月は二人に指差す。幸人と時雨だ。
第一位が排除された現在、次の標的が最上位――特等のSS級二人に向くのは自明の理。
そしてそれだけには留まるまい。
これまでの事から総合すると、狙いは狂座の完全崩壊。それは即ち裏の頂点に立つという意味。
つまり事態は何時の間にか、深刻な状況に立たされていたのだ狂座は。
「……上等じゃねぇか」
ようやく全てを聞いて納得したのか、時雨が己を奮い立たせるよう指を鳴らす。
「一両日中にも現れると思われます。相手はサーモにも反応される事の無い未曾有の敵……。これに対抗するには、御互いの協力関係が必須になります」
そう琉月は全員に視線を送った。
それの意味する事は――
「冗談、俺一人で殲滅出来るよ。コイツと協力なんて冗談じゃねぇ」
時雨にもすぐに分かった。幸人の方へチラリと視線を向けて吐き捨てる。
「――って言いたい所だけど、今回ばっかりは事の重大さが分かってるつもりだよ。特に“あの人”が相手ならな……」
だがすぐに訂正した。それ程に彼にとっても危機的な相手なのだ。口は悪くとも、共同戦線も吝かではないという事。
「そうです。これは裏だけの問題では留まりません。貴方達の敗北は即ち――全ての敗北と同義と思ってください」
琉月の危惧している事。それは裏の秩序の崩壊は、そのまま表に直結する。
「ああ……。闇に潰えたエリミネーター達。そして熾震への弔い合戦として、奴等は潰す」
「弔いとかお前らしくねぇな~。まっ、仲間意識なんて俺にはねぇけど、狂座に牙を向けた事は後悔させてやるぜ」
それぞれ思惑は違うが、狂座としては同じ。
個別活動が信条だったエリミネーター。此処に共同戦線関係が成立した。
――闇の仲介室内。とりあえずは、御互い些細な事でも連絡報告し合う事だ。
「私も何か判ったらすぐに連絡します。貴方達も周りに気を配っててください。彼等は一般人に紛れている可能性もあります」
琉月の再度の忠告で、一先ずこの場は流れ解散。
「ルヅキも気をつけてね。狙われてるのはボク達だけじゃないと思うし……」
室内から出る間際、悠莉が気になったのか心配そうに琉月へ詰め寄った。
「ええ、分かってます。ありがとう悠莉、私なら大丈夫よ」
「でも……何か不安なの」
状況が状況だ。彼女の心配する気持ちも分かる。琉月は事実上、狂座のトップの一人。エリミネーターではなくとも、狙われるであろう事は当然。
琉月はなるべく安心させるよう、悠莉の頭を優しく撫でていた。
「心配無いって。何たって琉月ちゃんは俺が守るんだからさ」
扉の向こうから放たれる、時雨からの爆弾発言。
「期待してますね」
ここまで恥ずかし気もなく言える時雨は、場の雰囲気としてはそぐわないが、琉月は素直に受け取った。
「任せといてよ。琉月ちゃんには指一本触れさせねぇよ俺が」
更に調子に乗る時雨。仮面で伺えないが、心なしか琉月は照れているようにも見えた。
――三人が室内から去った後、琉月は手元のパソコンへと向かう。
「さて……」
今回の件の情報収集。彼等の為にも、少しでも情報が欲しい。
“せめて組織名でも判れば良いのですが……”
かつて雫から得た報告。それらは大規模な組織で在ろう事。
だがまるで雲を掴むかのように、霞んで見えない。
もどかしかった。中心が誰であるかは判っているのに、全貌の一角すらも掴めないというのは。
“ガチャリ”
焦る思考の中、不意に室内の扉が開かれる。
三人が此処を出て、まだ数分も経っていない。
「――はい?」
だからこそ琉月は、てっきり彼等が戻ってきたのだと思った。
顔を扉に向けると、室内に入り込んでくる人物。それも複数。
「…………」
全員が純白のフードを身に纏い、表情も伺えない。
ざっと目視で室内には、十三名もの純白の人物が集結していた。
「此所は関係者以外、立ち入り禁止となっております。お引き取りを」
「…………」
琉月は椅子に腰掛けたまま、そう投げ掛けたが反応は無い。
勿論彼等に琉月は見覚えが無い。
ただ少なくとも、全員が“只者”でない事は確か。サーモは生体反応を示していないのだから。
なら考えられる事はただ一つ。
「狂座仲介部門統括、コードネーム『琉月』とお見受けする」
沈黙を破り、集団の一人から声が上がった。
「…………」
琉月は応えない――が、何も状況の多勢に無勢で萎縮している訳でもない。
“なるほど……狙いは私一人という訳ですか”
寧ろ逆。状況に揺らぐ事無く、冷静に全員を見回して判断した。明らかに自分一人が付け狙われた事を。
「いきなり押し掛けて来て失礼ですね。先ずはそちらから先に名乗るのが礼儀ではありませんか?」
そしてこの状況は、貴重な情報収集の場。十中八九、狂座を敵視しているのはこの集団で間違いないだろう。琉月としては今後の為にも、出来るだけ此処で情報を引き出しておきたい。
――それにしてもこの純白の集団。琉月は危機的本能に直感していた。
サーモでは解らなくとも、恐らく全員がエリミネーターのA級クラス――またはそれ以上の実力を持つ可能性が有るだろう事に。
しかもかなり統率が取れている。組織としても間違いなく、狂座と同等かそれ以上。
「私はこの通り、逃げも隠れもしません。御用件を。ただし先ずはそちらの素性をお願いします」
わざわざ一人になる瞬間を狙ってきた彼等の用件等、一つしかないだろうが、敢えて琉月は挑発に近いものを投げ掛けた。
「ククク……」
それに釣られたのか、集団の中から一人が一歩前へ出る。
「この状況を前にして、随分と気が強い」
余裕の含みを持たせながら、その者はフードを剥ぎ取り素顔を露にした。