この作品は「霧に消えた証言」の続編です。
まだ見てない方はそちらのほうもよろしくお願いいたします。
ってことで本編へどうぞ―
冬の夜。
相沢蒼は古い手紙を机の上に広げ、静かに煙草に火をつけた。
手紙には見慣れた筆跡で、こう書かれていた。
「真実は、まだ終わっていない。火傷の男を探せ。」
――火傷の男。
前回の事件の写真に写っていた、右頬に火傷の痕を持つ謎の人物。
霧島翔の死の背後にいた“誰か”。
その人物の手掛かりを追っていた永井沙織から、奇妙な電話が入ったのはその翌日だった。
「相沢さん……来てください。港区の“黒鴉(くろがらす)劇場”で……誰かが――」
通話の途中で、突然、銃声のような音が響き、電話は切れた。
相沢はコートを羽織り、夜の街へ飛び出した。
冷たい風が吹き抜ける港通り。
霧がまた、静かに街を包み始めていた。
劇場は、古びたレンガ造りの建物だった。
扉は開いており、中に足を踏み入れると、暗闇の中に微かな照明だけが点っている。
客席には誰もいない。だが、舞台上に一人の女性の影が横たわっていた。
永井沙織――彼女の胸には血の跡。だが、息はある。
「……相沢、さん……」
微かに唇が動く。
「“火傷の男”が……ここに……いたの……でも……もう……」
それ以上は言えなかった。
彼女の手から、一枚の写真が滑り落ちる。
そこには、炎に包まれる舞台の中で、仮面をつけた男が立っている姿が映っていた。
相沢は写真を拾い上げ、静かに呟いた。
「また、“霧島家の亡霊”か……」
その時、背後のドアがギィと音を立てた。
誰かが、こちらを見ていた。
相沢が振り向いた瞬間、冷たい風とともに一枚の名刺が床に舞い落ちた。
「黒鴉劇場支配人 篠原怜司」
名刺の裏には、赤いインクで奇妙な記号が描かれていた――
それは、霧島翔の暗号帳で見た“符号”と同じだった。
相沢は静かに拳を握った。
「霧はまた、戻ってきたな。」
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