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#えとさん主人公
MINA★彡
24
149
#死亡遊戯で飯を食う
ユイ
75
#闇バイト
るしゅ
180
会長邸1階。
ここは、吾妻家専用のレストラン。
朝食がずらりと並んだテーブルには、沈黙が流れていた。
いつも家族6人で囲むテーブルには、たった3人が座っている。
「美優ねえさん、顔色がよくないですね……。本当に大丈夫ですか」
朝食の席についているのは、2番目に生まれた「ブルース」。
パンプアップされたような筋肉をもつ、運動能力に長けた吾妻勇信だ。
「あまり気にしないでください。私のことなんかより、勇信さんのほうが心配です。今日から仕事復帰なさるんでしょ?」
吾妻美優は、夫である勇太を亡くしてから、はじめて朝食の場に姿を現した。
薄い化粧で顔を覆ってはいるが、目もとや頬にはうっすらと影が浮かんでいた。
「どちらかというと、早く会社に行って仕事に忙殺されたい気分です」
ブルースはそう言ったが、心の中にはべつの思いがあった。
――仕事はビジネスマンに任せておいて、俺はとにかく朝のトレーニングに没頭したい。タンパク質を摂るチャンスだ!
「ねぇねぇ、パパはいつ帰ってくるの? あと、おばあちゃんはいつになったらいっしょにゴハンたべれるの」
勇太の娘、さくらが尋ねた。
「さくら。おばあちゃんはずっとおねんねしてて、よくなるまでもう少しかかるの。それと何度も言ってるけど、パパは――」
吾妻美優はそれ以上、言葉をつなげることができなかった。
ブルースがすばやく補足する。
「さくら。朝ごはん食べたら、おばあちゃんのところに行ってみよっか。さくらが会いにいけば、きっと喜んでくれるよ」
さくらは浮かない表情で、「うん」と答えた。
もうすぐ5歳になる。
死というものについて詳しくわかっていなくても、無邪気に笑っていられない年齢になったのだろう。
父がもう帰ってこないことは理解はできても、次の瞬間にはまた父を探す。
姪っ子の純真無垢な姿を見るたびに、勇信の心は針で刺されたように痛んだ。
今の勇信にできるのは、たとえ短い時間であっても、姪っ子の興味を他へ逸らすことだった。
「さくら、朝ごはんちゃんと食べるんだよ。クリームスープにパンを浸して食べたら、すごくおいしいからね。あと、がんばってサラダも食べようね。お肌がツルツルになって、今よりもっともっとかわいくなるんだよ」
「さくらはいまでもかわいいんだよ?」
吾妻さくらが堂々とした顔で言った。
「今もかわいいけど、もっともっとかわいくなれるよ。そしたらいつか王子さまがやってきて、結婚してくださいって言われるかもしれないよ!」
「王子さまはテンゴクに行きました」
さくらの何気ない言葉に、テーブルが凍りついた。
「パパは王子さまなんだよ」と言っていた彼女の言葉が浮かぶ。
「さあ、さくら。勇信おじさんは会社に行かなくちゃいけないから、急いで食べなさい」
吾妻美優はスープをすくい上げ、さくらの口へ運んだ。
ブルースもスープを一口飲み、ほうれん草のソテーを食べた。
兄のことがあって食欲はあまりなかったが、それでも忙しいスケジュールを考えると、できるだけエネルギーを蓄えておかなければならない。
そのとき、携帯電話にメッセージが入った。
[使用人に見つからないように、ちゃんと朝食を持ってこいよ]
朝食の席につけない、別の勇信からのメッセージだった。
ブルースはすぐに返信した。
[二日酔いのくせに空腹を訴えるのか]
しばらく返信を待ったが、それ以上メッセージは来なかった。
ブルースは、本邸で朝食をとりたいと言ったビジネスマンを押しのけて座っている。
早朝のトレーニングを終えて強い空腹を感じていたことと、さらなる筋肉を作るための栄養素をないがしろにしたくなかったからだ。
8人掛けのテーブルには、ナイフとフォークの音だけが鳴り響いていた。
吾妻美優もどうにか食べようとサラダを口にしたが、ほとんど機械的に咀嚼しているだけだった。
この場に彼女の魂は存在しない。そんなふうに思えてならない。
食事を終えたブルースは、さくらを連れて母のいる部屋へ入った。
母、吾妻恵の腕には点滴が刺さっている。
恵は次男と孫娘が来たことを確認すると、ゆっくりと半身を起こした。
「お母さん、無理せず横になっててください」
「息子と孫が来たのに、寝てばかりいられないわ。それに、少しでも動かしておかないと体が固まっちゃうから。はぁ……何もかもがうっとうしい」
母の姿が不憫でならなかった。
吾妻グループの会長であり夫である和志が植物状態になって久しく、今度は長男の勇太まで失った。
常に豪快で快活な母ではあるが、思いもよらない苦悩の連続に、ついに起き上がれなくなったのだ。
「おばあちゃん、だいじょうぶ?」
さくらが点滴の管を見ながら言った。
「さくら、おばあちゃん、あとちょっとしたら、いきなり走りだすからね。だから心配しないで。そのときになったら、さくらを連れて遊園地まで行っちゃうから」
「ゆうえんち!? いくいく! でもどうして前にいったとき、ゆうえんちには誰もいなかったの? おともだちがたくさんいるほうがたのしいのに」
「お友だちが多いと、乗り物に乗るのにたくさん待たないとならないわよ?」
「うーん……まつのは好きじゃない」
「そう。だから貸し切るほうがいいのよ」
「かしきるってなぁに?」
「おばあちゃんはすごいってこと!」
母は点滴の刺さった腕をあげて、力こぶを作った。
無論、こぶなどできるはずもなく、さくらは表情のない顔でその腕を見ていた。
「あのね、さくら。ちょっとおばあちゃんとお話があるから、そっちのソファでテレビ見ててくれるかな」
「うん、わかった」
吾妻さくらはソファに座り、朝のこども番組を見はじめた。
まだカタカナが読めないため、画面上のひらがなだけを目で追っている。
母・恵は、幼くして父を亡くした孫娘を哀れみの目で見つめた。
「勇太がもういないなんて、いまだに信じられないわ……」
母は窓から見える松の木を眺めながら言った。
「お母さん、今はとにかく体調を回復させることだけ考えてください。頬が前よりもこけてるじゃないですか。もしこのまま病気にでもなったらどうするんですか」
「わかったわよ。あんまりやいやい言わないでくれない?」
「これでも、心配してるんですよ」
「そんなことより、勇信。あんたはどうなの。どこかに異常が出てたりしない? あんたこそ絶対に病気になっちゃいけないのよ」
「ええ、ぼくは大丈夫です。今日から仕事にも復帰しますし。グループ全体をこれ以上混乱させるわけにはいきませんので」
「無理はせず、とにかく健康を優先しなさい。
あなたまでこの呪われた運命に巻き込まれたら、ワタシは本気でお空に飛んでってやるからね」
恵はそう言って、ベッドに横たわった。
「心に留めておきます。では会社に行きますので、あまりふさぎ込まずにいてください」
ブルースは本邸を出て、自身の家に戻った。
他の勇信のために持ってきたパンをポケットから取り出した。
そのとき、何か粘りつくような不快感がブルースの頭にまとわりついた。
「……呪われた運命だって? どういう意味だ……」
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