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すぐ近くにいた笹尾に視線を向けるも、彼女は眉間にシワを寄せて真衣香を見つめている。
それには怒りや不快といった感情は見えない。かわりに”理解できない”といった、そんな空気が感じ取れた。
「いえ、もう特に残っていることはないですね、笹尾さん?」
高柳も真衣香の発言に、おや? と、驚いた顔を見せて、わざとらしく笹尾に確認をしてみせる。
「え? そ、そうです……ね?」
笹尾自身も、その言葉に疑問系で返して。
会話が成立しているようで実は全くしていないのだが。
しかし、そんなぎこちないやり取りをどう捉えたのか。
嬉しそうな声が響いてきた。
「じゃ、じゃあ!」
真衣香は何かを笹尾に伝えようとして一度黙り込む。しかし、すぐに息を吸って、ゆっくりと吐いて。
意を決したように再び口を開いた。
「さ、笹尾さんも一緒に帰らない? 実は、小野原さんたちとご飯食べて帰ろうって話してて」
「……はあ? 私、ですか? 本気?ってゆうか正気?」
「う、うん。さっき話の途中で、私逃げちゃったし、他も……その、色々みんなで話せたら」
そんなふうに言った後で、立花は両隣の小野原と森野を慌てた様子で交互に見ながら言った。
「あ! 勝手にごめんなさい! あの、でも笹尾さんも私以上に色々仕事で悩んでて……」
小野原は素早く瞬きをした後、唇を閉じたまま柔らかく笑みを作った。
「私はいいよ、笹尾さん、行く? 立花さんがいいなら森野さんもいいでしょ?」
「私はいいですけど」と、森野が答えたのを聞いて。
「や、でも、私……」
混乱したように答える声。笹尾は即答できないようだ。
それもそうだろう。なぜ自分が誘われるのか、そもそもこの誘いに裏はないのか。見抜きたくてたまらないだろうと思う。
そんな笹尾に、小野原はゆっくり話しかける。
「ま、川口さんの愚痴くらいなら、いくらでも聞くよ。今まで何もしてこなくてごめんね、同じ課なのに自分のことで精一杯で」
「そうですねー。立花さんが誘ってるんだし、一緒に行きましょうよ。川口さんのことも、実は人使い荒い坪井さんのことも愚痴れますよね、みんなで」
彼女たちのやりとりを聞いて、高柳はニヤリと嫌な笑顔を浮かべ川口に声をかけた。
「だ、そうだ。川口、お前も行って聞いてくるといい。 気が引き締まって仕方ないだろうな」
「……や、え、遠慮します……」