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灰色に陰ってきた気持ちが、目の前に置かれた『幸福の香り』に払拭される。そして明るい声。


「はーい、お待たせしましたぁ、コーヒー濃いめです」


憂鬱な気分は脇に置き、こんがりと程よく焼かれた食パンを食べ、苦めのコーヒーを味わった。


香りと味が鼻から抜けて恍惚となる。


「ほんと、いつもながら美味しい」


穂乃里は嬉しそうに笑って、


「豆の質はオーナーのこだわりだから。採算度外視のね」


と肩を竦めた。


不思議な店。

メニューはコーヒーと、専属パティシエが毎朝納品するスイーツだけ。売り切れたらそれでその日は終了。モーニングで厚いトーストが付くのは、雪緒と視察に行った、某コーヒー店を参考にして最近はじめたくらいの、商売っ気のないカフェ。


けど、アットホームでとても居心地がいい。


店と穂乃里に和ませてもらって、勇気を出して溜まったメッセージに向き合った。


『10時まで待ってみるけど、連絡して』

『一応、部屋に移動するわ。。』

『はー、夜景がムダにキレイだわ』

『あれ、ほんとに旦那なの?俺、もしかして訴えられる?』

『既読にすらならない。。おーい清水さーん?生きてる?』


雪緒は天井を仰いだ。


やってしまった。いろいろと。


でも、こちらを責め立ててこないところが高見らしいというか。


2歳年上の30歳。

結婚秒読みの、長いつきあいの彼女がいる。

遊び上手で、深入りしないから、別れるのもスマートでトラブルを起こさない。全ての女性をリスペクトしている。


そんな男だから選んだ。

火遊びの相手に。程よく自分を汚してくれる、後腐れのなさを期待して。


雪緒は悩みつつ、返事を書いた。


『生きてます。すみません。気づいたら家でした。途中の記憶がありません』


直前で消えちゃった上に嘘ついてごめんなさい。

心の中で平身低頭して、送信ボタンを押す。


――嘘ついて。迷惑かけて。もう十分私はクズじゃない。


旦那にあっさり捨てられるのに相応しいくらいの。




結婚生活5年目を迎えようとしていたとき、夫の真が出奔しゅっぽんした。


一つの漏れもなくきっちり記入された離婚届を最後のプレゼントにして、姿を消した。


真は私を捨てたのだ。

だから、それに相応しい人間になってやると決めた。


だって、今まで正しく生きてきたのに、こんな目に会うのは不合理ではないか。


そう考えた自分は、傷つきすぎて壊れかけていたのだと思う。

好きだったのはきみじゃない

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