テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
彼は誕生日というものを、効率の悪い習慣だと考えていた。
年齢が一つ増えるだけの日に、時間や労力を使う理由が見当たらない。
祝う意味も、祝われる価値も、合理的には説明できない。
だからその日も、無舵野はいつも通り教室のドアを開けた。
だが、点灯しているはずの照明がなぜか消えていた。
無舵野「……?」
無舵野は一瞬立ち止まった。教室の電気は確かに消えている。
教室に人影は見当たらない。
にもかかわらず、周囲には微かにざわめく声が聞こえる。
教室内を見渡すと、窓際や机の後ろに人影がちらりと覗いていた。
???(おい、静かにしろ)
???(はぁ?静かにしてるだろ!)
???(うるせぇ)[ゲシッ]
???(痛った!?)
無舵野「….お前らそんなところで何している?」
一瞬、教室の空気が凍りついた。
机の後ろや窓際に潜んでいた人影が、ばつの悪そうに身じろぎする。
???「え、えっと….」
???「お前のせいだぞ」
???「あ゛?」
???「まぁまぁ…」
無舵野「おい、どういうことだ?」
(…せーの!)
「ダノッチ!/ムダ先!/無舵野/無舵野先輩」
「誕生日、おめでとう!!」
無舵野「….!これは?」
花魁坂「ちょっ、ダノッチ冷めすぎ〜」
四季「見ての通り ムダ先の誕生日会だろ?」
無舵野「…祝う必要はない。非効率だ」
反射的にそう言ったが、誰も引き下がらなかった。
「効率は悪いけどさ」
「やりたかったんだよ」
簡潔で、理屈のない返答だった。
無舵野は黙って四季の手にあるケーキを見つめる。 ろうそくの火が静かに揺れ、その光が白い皿に柔らかな影を落としていた。
ーー確かに無駄だ。
効率的にも、時間的にも、最適解とは言えない。
だが。
無舵野は視線を上げた。
教室のあちこちに散らばる顔。息を潜めて失敗し、蹴り合い、今はなぜか誇らしげに笑っている連中。
花魁坂はスマホを構えたままニヤニヤしているし、四季は「ほら、早く吹け」とでも言いたげに顎でケーキを指す。
無舵野「……一分だけだ」
そう言うと、仲間たちは笑った。
四季「短っ」
真澄「相変わらずだな」
花魁坂「じゃ、タイマー測る?」
無舵野は答えず、ケーキの前に立つ。
ろうそくはきっちり本数が揃えられ、無駄に等間隔だった。
そこだけは、妙に彼の価値観に沿っている。
無舵野(…..誰が数えた)
考えたところで意味はない。
彼は静かに息を吸い、吐いた。
「ふっ」、と。
火が消える。
一瞬の静寂のあと、教室が音で満たされた。
四季「おお〜!一発成功」
花魁坂「ダノッチ、顔固いよ〜」
照明がつき、白い光が現実を連れ戻す。
机の上のケーキ、紙皿、割り箸、少し歪んだ飾り付け。
無舵野は腕時計に視線を落とす。
まだ四十秒ほど残っていた。
無舵野「….時間が余ったな」
四季「じゃあ食え」
即答だった。
花魁坂はもう皿を配り始めている。
段取りがいいのか悪いのか分からないが、迷いはない。
馨「あ、俺手伝います!」
印南「では、私も手伝おう!」
[ゲホッ]
波久礼「こっちに血をとばすな!」
真澄「チッうるせぇぞ、猫ぉ〜」
波久礼「ひぃ!」
無舵野「….合理的ではない」
四季「誕生日会だぞ」
無舵野「理由になっていない」
それでも、差し出された皿は受け取った。
拒否する理由を、見つけられなかった。
フォークで一口。
甘い。
無舵野は咀嚼しながら、教室を見回した。
誰も彼を観察してない。
ただ、それぞれが勝手に笑い、食べ、喋っている。
祝われている、というより
同じ空間にいるだけだ。
無舵野(……負荷は、思ったより小さい)
効率は悪い。
だが、損失もほとんどない。
腕時計を見る。
一分はとっくに過ぎていた。
無舵野は何も言わず、もう一口ケーキをたべた。
[フッ]
無舵野「悪くないな」
微かに微笑みながらぼんやりと口にする。
花魁坂「…ダ、ダノッチが…..」
四季「?」
花魁坂「デレた!?」
四季「えっ!?あの…ムダ先が!!」
真澄・無舵野「うるせぇ一ノ瀬/うるさいぞ京夜」
[ゴッ]
室内に鈍い音が響く
花魁坂「痛った〜手加減してよ!」
四季「〜〜〜〜」
そのやりとりを見て、教室が笑いに包まれる
花魁坂「まぁでも、改めて」
全員
「無舵野先生!お誕生日おめでとう!!」
無舵野(….無駄も、たまには悪くないかもしれない)
「…ありがとう」[ボソッ]
それは、今まで合理性だけで動いてきた彼にとって、初めての感覚だった。
甘い味と、ざわめく声と、笑い声とーー
すべてが、時間を測れない価値をもっていた。
__________________
ムダ先お誕生日おめでとう🎉
ってことで小説書きました!
仲間に囲まれて悪くないなって思うムダ先が見たかった!
コメント
4件
ムダ先がッッ!? 殴られるチャラ先と四季くんで笑っちゃった! 今回もめっちゃ面白かった!!

なにそれ尊すぎやしませんか????