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#ボーイズラブ
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昼休み、購買前の廊下
阿久津奏多が俺の肩をガツンと肘で突いてきた。
「おい、我妻。昨日『右手痛ぇ』とか抜かしてたけど、どーせ夜中までシコってたんだろ」
「は?お前みたいなクソ猿と一緒にすんなよ」
「おい今なんつった?」
「猿って言ってんだよ。耳まで遠くなったか?」
「細えくせして生意気言ってるとぶち殺すぞ」
「はっ、お前こそ、そのデカい胸板のくせに栄養不足なんじゃね?煽り耐性ないしな、モデルみたいな体してんのに中身チワワじゃねえか」
「は?俺がチワワなら、世の中の男ミジンコだろボケが」
「知らねーよ」
「……つか、さっきからパン選びに時間かけすぎだろ。さっさといつものメロンパン買えよ、この貧弱白髪」
「白髪じゃねえ、銀髪って言え!そもそもメロンパンは俺の管轄だ。お前は黙ってそのクソ不味そうな高タンパク飲料だけ飲んでろよ、筋肉バカ」
俺───我妻零は、阿久津の端正すぎる顔面を思い切り睨みつけた。
こいつ…奏多は一見、雑誌から飛び出してきたような美形だが
中身はただの「下ネタ大好き暴言製造機」だ。
一言喋れば下ネタ、二言目には喧嘩。
男子校という掃き溜めで、こいつの性格は完全に煮詰まっている。
「……マジムカつく。お前のそのクソ生意気な口、一回ぶん殴ってひん剥いてやりてーわ」
「やってみろよ。てめえの長い脚へし折ってやるから」
廊下のど真ん中で、俺たちは互いの胸ぐらを掴み、額を押し付け合う。
周囲の奴らは「また始まったよ」と避けていくが、俺にとってはこれが俺たちの日常だ。
こいつと罵り合っている時だけが、一番頭が冴えるし、正直に言えば……退屈しない。
◆◇◆◇
放課後、部室
忘れ物を取りに戻ると、阿久津がソファにだらしなく寝転がってやがった。
「……なんだ、まだいたのかよ、ストーカー」
「自意識過剰か… 俺は今日、部室の掃除当番なんだよ。お前ぇこそ、俺に会いたくて戻ってきたんじゃねーの?寂しんぼがよ」
「ふざけんな。お前に会うくらいなら、校庭の土食ってる方がマシだ」
俺がロッカーから荷物を引っ張り出した瞬間、阿久津が立ち上がって背後に立った。
「おい、その荷物。昨日俺が貸したマンガ入ってんだろ。返せよ」
「あー……明日でいいだろ。まだ半分しか読んでねぇし」
「ダメだ。今すぐ返せ。てめーエロいとこだけ何回も見直してんだろ。ページくっついてたらマジで殺すぞ」
「してねーよ!お前みたいなエロ猿と一緒にすんなっつってんだろ」
「あぁ!?」
阿久津が俺の腕をガッと掴んで引き寄せた。
そのままもつれて、俺の背中がロッカーにドンッとぶつかる。
「痛てぇな……加減しろよこのゴリラ」
「うるせー。お前が素直に返さねーのが悪ぃんだろ。……つか、お前何の匂いしてんだよ」
阿久津の顔が、あり得ない距離にある。
怒り狂ったような瞳、荒い鼻息。
こいつの、狂おしいほどの「憎たらしさ」が、熱となって俺に伝わってくる。
「…匂い?なんもしてねえよ。お前の匂いだろ。さっきから暑苦しいんだよ」
「……はぁ?マジでお前…ムカつくな」
阿久津の手が、俺の首筋に伸びる。
暴力か、それともただの威嚇か。
俺はそいつを跳ね除ける代わりに、阿久津のシャツの襟を思い切り掴み返した。
「ムカつくのはこっちのセリフだ。そっちがその気ならその綺麗な面、二度と拝めねえくらいボコボコにしてやるよ」
喧嘩の導火線に火がついた。
いつもの罵り合いの延長。
互いの存在を全否定するような、暴力的な接触。
……けれど、その瞬間の俺たちは
自分たちの「憎しみ」が
もう臨界点を突破して別の何かに変質しかけていることに、まだ気づいていなかった。