アメリカ
着いた…
俺が行ったのは旧校舎の空教室。元から人は来ないが今の時間は尚更来ないことを俺は知ってる。
アメリカ
あ、というか制服濡れたままだ…まぁいいや。放置してたら乾くだろ
俺は扉を閉め、隅の壁際にうずくまった。濡れた制服から水が滴り、冷たい床に小さな水たまりを作っていく。俺は反論する気力も、弁解する意味も見出せなかった。ただ、全身の力が抜けていくのを感じる。
運よく日当たりが良かったので制服は乾いた。
アメリカ
そういえば今何時だ――
アメリカ
ッ…⁈
その時、扉が開き、廊下の光が差し込んだ。
日帝
……アメリカ。
聞こえてきたのは、日帝の声だった。彼奴は俺の制服が乾いていることに気づいたのか、すぐに空き教室の冷たい空気に溶け込んだ。
彼は、古い机の間に立ち止まり、俺の姿を見て、一瞬息をのんだようだ。その手には、俺のカバンが提げられていた。
日帝
…こんなところで、何をしているんだ?
俺は何も答えなかった。言葉を発すれば、崩れてしまいそうだったから
日帝は、おずおずと一歩近づいた。
日帝
皆が、心配しているんだ。いや…正確には、混乱している。
日帝は視線を床に落とし、続ける。
日帝
モブ美の怪我、今朝の件…あれは、アメリカがやったことだと、皆は結論づけているんだ。特に、お前が何も弁明しなかった。その行動は、俺たちには…理解しがたい。
彼の声は、困惑よりも、客観的な状況に対する冷静な断定を含んでいた。そのトーンは、俺が最も恐れていた、**『証拠に基づく非難』**だ。
日帝
どうして、説明してくれないんだ。お前が**『違う』**と言うなら、俺は……
日帝は言葉を詰まらせた。彼の表情に、裏切られたような痛みよりも、『これまでの友情は偽りだったのか』という冷たい疑念が深く刻まれているのを感じた。
日帝
俺は……これ以上、お前を庇う理由を見つけられない。
その言葉に、俺は初めて日帝の顔を見た。彼の瞳は揺れていたが、その奥には、**『現状が示す証拠』と『過去の友情』**が激しく戦っているのを感じた。そして、証拠が圧倒的に優勢だった。
でも、俺にはその希望に応える力は残っていなかった。
アメリカ
……どうでも、いいだろ。
俺が出した声は、信じられないほど掠れていた。
日帝は、その言葉を聞いて、肩を微かに震わせた。そして、彼の瞳にわずかに残っていた過去の光が、完全に消えたようだった。
日帝
…そう、か。
日帝はそれ以上何も聞かなかった。彼奴が俺の前に持ってきていたカバンを、そっと床に置く。
日帝
これ、お前の上履きだ。画鋲は、俺が全て抜いておいたからな。それじゃあ
日帝は、静かにそう言って、踵を返した。
アメリカ
待てよ。
俺は、思わず声を上げた。引き止めようとしたわけではない。ただ、彼を一人にしたくなかった。
日帝は振り返らなかった。扉に手をかけたまま、背中越しに言った。
日帝
……俺が最後にできることは、これだけだ。一応言うと、俺はまだ、わずかに信じてるからな。
日帝はそう言い残し、静かに扉を閉めた。
再び、空き教室に沈黙が戻った。
俺は、日帝が置いていったカバンと、冷たい床に座り込んだまま、ただ一人、深いため息をついた。
――別にお前はもう、俺を信じていないくせに。
日帝は、俺を信じる「義務」から、まだ見捨てていないだけだ。それは、同情ではなく、彼奴の持つ正義感に縛られているだけ。そして、その正義感すら、モブ美の仕掛けた証拠によって、今にも砕け散りそうになっている。
俺は、冷たい空き教室の中で、心の縫い目がミシミシと音を立てるのを感じていた。
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この度は、第七話「縫い目を軋ませる沈黙」をお読みいただき、誠にありがとうございます。 前回の投稿からお待たせしてしまい、大変申し訳ございません。この数ヶ月間、引っ越しを含め、私事の用事が重なり、なかなか執筆に集中できずににおりました。長らくお待たせしてしまったこと、重ねてお詫び申し上げます。 今回は、孤独に追い込まれたアメリカが頑なに守り続けている心の「縫い目」が、どれほど軋み、痛みを伴っているのかを感じ取っていただければ幸いです。 日帝の心に残された「わずかな信頼」という言葉は、アメさんにとって救いではなく、むしろ重い鎖となってのしかかります。物語は、彼の心が完全に「裂ける」のか、それとも「縫い合わされる」のかを分ける、非常に重要な局面へと進んでいきます。 皆様からのご意見やご感想は、作品の大きな励みとなります。もしよろしければ、ぜひお聞かせください。 次回以降も、この物語を最後まで見届けていただけますよう、応援よろしくお願いいたします。