『受信しました。十分な証拠を得られているようですね。これからの動きは慎重に行ってください。特にこちらへの情報漏洩がないよう注意してください』
美晴はアプリの返信を読むと、再び隣の部屋で繰り広げられている音声をイヤホンで聞いた。彼らの会話は聞くに堪えないものばかりだ。頭が痛くなってくる。
――はあ はあ 気持ちよかったでしゅ♡
どうやらフィニッシュを迎えたようだ。
――ミルクいっぱい出たもんね♡ 今なら空いているから、大浴場に行ってきたら?
――うん。こずたんも行く?
――後で行くよ。荷物の整理するから。
――じゃ、待ってるよ~。
扉の開閉する音が聞こえたと思ったら、うっざ、と大声が聞こえたので美晴は首をすくめた。こずえの声のようだが……?
――あああ、キモ! なんなのあのキモイプレイ。マジ最悪!!
(普段のこずえってこんな感じなんだ……)
盗聴されているとも知らず、こずえは思った不満をぶちまけていく。腹が立っているからだろう、全部ひとりごとを喋っている。
――あの男、赤ちゃん返りとかマジないわ。
――バブバブ言っててキモイって!
――お金持ってなきゃ、絶対ない男。
――美晴もあんなのとよく結婚して生活してるわ~。ああ、馬鹿だから気が付いてないんだね。ほんとおめでたいわ。むかつく!!
――幸せオーラ出してんじゃねえよ! 流産したくせに!!
ドキリとした。傷をえぐるようなことを言われるとは……。
しかしこれが現実なのだ。これが本当の、本物のこずえの声。どんなことを言われても、最後までしっかり聞き届けようと思った。
――孤児のくせに私より先に結婚してあんないい暮らしして!
――流産してざまあって思ったのに、まだ離婚しないとか、バカなのってカンジ!
――もっと不幸になればいいのに!
――あ。そうだ。連絡してやろうっと。一人きりでかわいそうな美晴に~。
(やばっ。電話の音量切っておかなきゃ!!)
慌ててスマートフォンを操作し、バイブレーションに切り替えたところに、電話が鳴り始めた。震動と共に美晴のスマートフォンに『こずえ』と表示された。体が硬くなる。
(もし今、電話に出て、隣にいることがバレたら困るな…無視しよう)
口から心臓が飛び出てしまうのではないかというくらい、胸を高鳴らせながら電話を見つめた。暫くすると諦めたのか、バイブレーションが鳴りやんだ。続いてメッセージが入ってくる。
――ねえ、美晴。どこにいるの? 今、ちょっと話せない?
これについても返信ができずにそのままにした。そっとスマートフォンを置いてイヤホンを外した。
(どうするべきか……)
彼女はなにを話すつもりなのだろう。リスキーではあるが、知りたい気持ちもあった。しかしアプリからの警告を思い出し、美晴はこずえとの接触を避けた。