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その夜はやけに風が強かった。障子の隙間から差し込む月明かりが、やけに白く、鋭く感じられた。
俺の体の奥で、何かがじわじわと膨らんでいく。
爪が伸び、耳が尖り、呼吸が荒くなる。
「健さん……?」
あんたの声が遠く聞こえた。
返事をしたかったのに、喉から漏れたのは低く唸る音だけ。
来た。
俺の理性を食い破る、呪いの夜が。
視界が滲む。
骨が軋む音と共に、背中が盛り上がり、銀色の毛が生えそろっていく。
牙が口の端から覗き、瞳は黄金に染まる。
「あ……」
あんたが一歩後ずさった。
その瞳に、恐怖が走ったのを俺は見逃さなかった。
逃げろ、と叫びたかった。
でもその瞬間、窓の外から獣の遠吠えが響いた。
それに呼応するように、俺の体は完全に化けオオカミへと変わり果てた。
次の瞬間、俺は障子を突き破り、夜の森へ駆け出していた。
足音を追うように、あんたの声が響く。
「健さん!」
振り返るな。
振り返ったら、きっとあんたを……
月が、今夜も丸すぎるほどに輝いていた。