テラーノベル
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✧≡≡ FILE_053: L ≡≡✧
ヴォクスホロウ研究所・第六実験室。
そこは、今やひとつの廃墟だった。
壁には焼け焦げた痕。
床の一部には、溶け落ちたタイル。
それでも──中央の実験台だけは、奇跡のように原形を留めていた。
「……」
少年は、歩を進める。
あのときの光の記憶。
誰かが庇ってくれた、あの温もり。
すべてが、この部屋に焼き付いている。
──まだ、“彼らの影”は、ここにある。
ワイミーは、背を向けたまま立ち尽くしていた。白衣は歳月に黄ばみ、眼鏡の奥の眼差しは、かつてよりも深く沈んでいる。
「……ワイミーさん」
小さな声。
次の瞬間、白衣の裾が、ぐい、と引かれた。
ワイミーは、ゆっくりと振り返る。
見上げる少年の目は──もはや、あの日の幼子のものではなかった。
親を求めず、愛に縋らず、ただ、まっすぐに“願い”を伝える瞳。
「名前が──ほしいです」
ワイミーは、一瞬、言葉を失った。
少年の足元には、二つの影が重なっている。
一つは、ドヌーヴ。
もう一つは、コイル。
焼き付いたまま、消えなかった命のかたち。
──そこで、確信する。
(やはり、この子は……彼らの“息子”か)
ワイミーは、ゆっくりと目を閉じた。
(この子は、すでに光の意味を知っている。影の深さも、正義の代償も──すべてを背負ってきた)
ならば。
名を与える理由は、十分すぎる。
ワイミーは、はっきりと告げた。
「……ああ。君に、名を与えよう。君の名は──“L”だ」
少年は、驚いたように目を見開いた。
その瞳に、確かに光が灯る。
「それは、正義を継ぐ者の名だ。世界が再び闇に呑まれるとき、人々が希望を失ったとき──その名は、誰かの“光”になる」
「……L……」
少年は胸元に手を添え、その名を抱くように呟いた。
「ありがとう、ワイミーさん。これが……《無償の愛》ですか?」
ワイミーは、一瞬だけ目を伏せる。
それから、そっと少年の頭に手を置き、撫でた。
「そうかもしれない。いや、君が“そうだ”と思うなら、きっとそうなのだろう」
愛と正義を受け継ぐ子供たちが、世界を照らしていくなら──きっと、世界は変わる。
そして──Lはワイミーズハウスで育った。
あのウィンチェスター爆弾魔事件から、幾年もの時が流れた。
新たな時代を迎えた世界で、ひとりの青年Lが、闇に沈む事件を“光”で照らし始める。
L──
その年齢も、国籍も、素顔すらも、公には知られていない。
だが、その名が記されれば、戦争すら止まると言われた存在となった。
無数の殺人事件。
密室トリック。
国家規模のテロ計画。
絶望の中心には、いつもLの名があった。
彼は、正義の代弁者ではない。
誰かの復讐でも、代理人でもない。
ただ──自分で選んだ信念に従い、答えを探し続ける。
世界最高峰の探偵だ。
“照らすために、生きている”青年──
その青年と──決着を付ける。
2002年。
Lは、伝説の事件のひとつ──『BB連続殺人事件』という、超難解なパズルへと足を踏み入れていた。
爆弾のような派手さはない。
世界への声明もない。
これは──BがLに突きつけた、純粋な挑戦だ。
第4の事件まで──もう、ほんの少し。
──生まれてすぐに授かるものを“無償の愛”と呼ぶのなら。
この“目”も。
この“名前”も。
父と母から与えられた、無償の愛だったのかもしれない。
この目を授かったことを、不幸だとは思わない。
ただ──少しだけ、ほんの少しだけ、生きづらかっただけだ。
失礼。
──無駄話は、ここまでにしよう。
そろそろ、この《遺書》を閉じる。
だが、もし次に“語ることができるなら”──
“Aが自殺するきっかけとなった、あのバイオテロ事件”について、語るとしよう。
──Lの名を継ぐ者へ。
この事件の真相と、“L”の物語を──
──ニア。
君に、託す。
Lの名を継ぐということは、Lの“無償の愛”を受け取るということだ。
それは、決して重荷ではない。
進む道を照らす、“光”になるだろう。
以上。
ウィンチェスター爆弾魔事件。
──“Beyond Birthday”より。
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コメント
2件
本当に最高でした!!!すごく感動しました!!!! アカツキさんの小説読んでいてとても面白いです!!!