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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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生理の描写があります。

苦手な方はお気をつけ下さい。








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オンボロなベッドの上。微睡みの中寝返りを打つ。

マットレスに新しく身体の側面が触れると感じる冷たさ。いや…濡れている。私は慌てて上半身を起こす。

加えてお腹をチクチクと刺すような痛み…これはもしかして…


「生理だ…」



私がNRCに入学しはや半年。女であることを隠して過ごしてきた。慣れない環境、次々に舞い込むトラブル。ストレスや精神的な疲労の為か全く来ていなかった生理。男子校の中に女子が1人。そんな状況下で生理がないことは好都合だと思っていた。それ故に忘れていた。

布団を捲るとマットレスは血の海。幸い相棒のグリムは昨日からハーツラビュルにお泊まりしているから不在。不幸中の幸いであった。

しかし洗うことの出来ないマットレス。どう処理したら良いのか分からず途方に暮れてしまった。

棒立ちで血塗れたマットレスを眺めていると、太ももを伝う生暖かい血液に身が震える。

とりあえずトイレ…いや、お風呂だな。とりあえず替えの着替えを引っつかみ、急いで風呂場に向かう。



シャワーのコックを捻りお湯が出るのを待つ。しかしオンボロなこの建物のシャワーもやはりオンボロ。なかなかお湯が出ない。冷たい水が足の裏を濡らし、冷えていた指先がさらに冷たくなる。その間も内腿を伝う血液。普段なら少々冷たくても、まぁいいか。と浴びるのだが、今日は生理のせいで身体が冷えて敵わない。なかなかお湯が出ないシャワーにイラつきながら、寒さと腹や腰の痛みに耐える。普段なら、オンボロ寮の備品なんだからこんなもん!と笑って誤魔化せることも今はイラついて仕方ない。

お湯が出始めた頃にはイライラもピークになり、こんなボロな建物をあてがった学園長に対して、怒りが湧いていた。今度会ったらあのツヤツヤの黒い羽根を全部引きちぎってやると。八つ当たりである。その位には心が荒んでいた。

しかしお風呂とは不思議な力があり、お湯を浴びて身体が温まると、イライラもおさまり心も穏やかになる。腹や腰の痛みも少し緩和される。心に余裕が出来ると、見えてくる現在の状況。


生理用品がない…ここは男子校だ。どこで入手出来るかもわからない。

どうしたらいいんだろう。

突然押し寄せる不安、久しぶりの生理…こちらに来てからは初めての生理。腹痛と腰の痛み。血液で汚れたパジャマやマットレス。

元の世界にいた時はお母さんが生理用品を用意してくれていた。血で汚してしまっていたシーツやパジャマもお母さんが「大丈夫よ。洗濯しちゃうね」とすぐに洗ってくれた。

でもここには優しくて頼りになるお母さんはいない。

急に襲う心細さと、不安感に耐えきれず涙が零れる。


どのくらい泣いただろうか。こんなに泣いたのは小学生低学年の頃、1人で遊びに出かけようとして、住んでいたマンションの階段ですっ転んだ時以来だ。泣いていたら誰かが声を掛けてくれると思っていた私は、大声でしばらく泣いていた。しかし誰にも気がついてもらえず私の元に助けは来なかった。その時は泣いていても埒が明かないと判断し泣き止んで、自分の足で立ち上がった。人間諦めも肝心だ。そのお陰で前に進めた。


これ以上泣いても優しいお母さんは助けに来てくれないし、汚れたマットレスが綺麗になるわけでも、生理が止まるわけでもない。

立って歩け、前へ進め。あんたには立派な足がついているじゃないか。有名な錬金術師が言っていた。私は彼より年上だ。自分の足で立ち上がらなければ。強く生きなくては。誰も助けてくれはしない。彼には弟がいて2人で助け合っていたが、私は1人だ。1人でなんとかせねば。

と、まぁこんな事を考える余裕が出来る位には頭はクリアになった。

とりあえず生理用品を調達する為には下着を履いて服を着なくてはいけない。

トイレットペーパーを折りたたんでナプキン代わりにと思ったが、それでは補える気がしない。

仕方ない。この世界に来て初めて買ったタオルハンカチを使うしかない。肌触りがよくて気に入ってたんだけどな…。と思っているとまた少し瞳が潤んでくる。

私は鼻を1回啜り、身支度を整える。

髪を乾かす時間も惜しい。すぐにでも今の最悪の状態から脱したい。

私は濡れている短い髪をそのままに、あまりお金が入っていない財布と携帯だけを持って、1番頼りになると確信したサムさんのもとへ向かう。


春先とはいえ、冷たい風が吹いており濡れた髪が一気に冷えていく。そこから身体が冷えていくのも早かった。冷えのせいか、先程より腹痛が酷くなり吐き気をもよおす。それと同時に血の気が引いていくのを感じる。立っていられなくなり、その場に蹲る。

さむい さむい さむい いたい いたい いたい…

早くサムさんの所に行かなければ。早くしないと寮にグリムが帰ってきちゃう。こうしていても誰も助けてくれないんだから。と思いながらも段々目の前が暗くなっていくのを感じる。


「監督生?…監督生!大丈夫か!」


誰かの声が聞こえる。意識を手放す前に誰かが私の肩を抱き倒れるないように支えてくれる。その支えられた腕は力強く温かく安心するものであった。私はそのまま意識を手放した。



* * *


温かく心地いい。幸せ。ずっとこのままだったらいいのに。

少し冷たくて骨ばった手が優しく私の頬を撫ぜるのを感じ、重たい目蓋をゆっくり持ち上げる。

まだ寝惚けた眼には見覚えのある頭に角を2本携えた青年がうつった。


「…つのたろ」


「あぁ…目覚めたか。具合はどうだ?」


彼の闇夜に浮かぶ月のように、優しく穏やかな声が今の私にはとても心地よかった。

働いていない頭と気怠い身体のせいで、返事が出来ない。代わりに私の頬を撫でてくれていたうんと大きい手に擦り寄る。

ツノ太郎はそんな私の”返事”に満足したのか目を細め口角を上げている。


「シルバーが青い顔でお前を抱き抱えて帰って来た時は肝が冷えた。…月のさわりか。随分しんどそうだな。可哀想に。」


ツノ太郎に頬を撫でられ、目を閉じながら掛けられた言葉を反芻する。

そうなの…生理になっちゃったの。お腹痛くてしんどいの。口に出さなくても分かってくれると思い心の中で返事をする。……そうだ!生理!!私は今生理で、ナプキンを買いに行く途中で!!

私は慌てて身体を起こし、今の状況を確認する。

黒を基調とした部屋。天蓋付きのベッド。一際目立つドラゴンの石像。私の部屋ではないことが一目瞭然。

人の布団を汚してはいけないと慌ててベッドから出ようとするが、身体を支えていた手が滑りバランスを崩す。落ちる!と思い衝撃に備え目を閉じる…がいつまで経っても痛みがやってこない。


「おやおや、そんなに慌ててどうした。別にとって食ったりしない。少し落ち着け。」


恐る恐る目を開けると、少し見上げた先にツノ太郎の綺麗な顔が。なんとツノ太郎の膝の上で横抱きにされてるではないか。


「やっ…ツノ太郎の服が汚れちゃう…離して…ベッドも汚しちゃったかも…ごめんなさい…ごめんなさい…」


不安と驚いたのと羞恥心で、勝手に涙が出てくる。

力の入らない腕でツノ太郎の胸を押してみるがビクともしない。

やだ…やだ…と子どものように泣いていると額に柔らかい感触を感じる。それと同時に冷えきってしまっていた私の指にツノ太郎の指が絡んでくる。


「ユウ、落ち着け。安心するといい。月のさわりの対処はきちんとしてある。もちろん魔法でだ。だから僕の服もベッドも汚れていない。大丈夫だ。」


「私…生理になっちゃって…ここにきて初めてで…オンボロ寮のベッドも汚しちゃって…お腹も痛くて…どうしたらいいかわかんなくて…グリム帰って来ちゃうのに…ナプキンもなくて…」


ツノ太郎の体温に安心してしまった私は不安な気持ちを全て言葉にのせる。話がまとまっていないし、泣きながら言葉を詰まらせているのにツノ太郎は時折相槌を打ちながら受け止めてくれる。


「大丈夫だ。オンボロ寮のベッドも魔法で綺麗にしてある。お前が必要としている物もそこの袋の中に用意してある。それを使うといい。もし足りない物があれば教えてくれ。すぐに用意しよう。1人で心細かっただろう。よく頑張ったな。今度から困ったことがあれば僕を頼るといい。必ず力になろう。」


そう言いツノ太郎は子どもをあやすように優しく抱きしめて、身体を揺らしながら背中をポンポンと叩く。

ツノ太郎の言葉で、彼の温かい体温で不安が全てなくなった。安堵からかさらに涙が溢れてくる。

辛かった。不安だった。1人でなんとかしないといけないのに、1人じゃどうも出来ないということが。頼る場所がなく孤独なことが。

でもツノ太郎が助けてくれた。1人で全部頑張らなくて良いんだ。頼っても良いんだ。


「ありがとう…ツノ太郎…。1人じゃ何にも出来なくて…不安だったの。でもツノ太郎が助けてくれたから大丈夫になっちゃった。」


へへっ…と笑うと、赤くなった目元に優しく触れてくれる。熱を持った場所にツノ太郎の低めの体温は心地よく、その手を離すまいと自分の手を、大きく骨ばった手の上に重ねる。


「それは良かった。ほら、まだ身体がしんどいだろう。このままもう少し休むといい。楽になるまでゆっくりして行け。僕が傍にいてやろう。」


また私の額に柔らかいものが触れる。すると急に目蓋が重くなり、目を開いていられなくなる。ツノ太郎がよく休めるように魔法をかけてくれたのだろう。眠っている間も何だか離れたくなくて、眠りに落ちる前にツノ太郎の寮服をキュッと握り、ツノ太郎の程よく筋肉のついた胸に顔を埋める。ムスクの甘い香りで満たされた所で私の意識は途切れた。




「ふふふ……ああ。そうだ。僕に縋るといい。依存するといい。僕なしでは生きられないようにしてやろう。僕のユウ……僕はお前を離してやれそうにない。」


ペリドットの瞳は細められ怪しく光るのだった。



𝐄𝐍𝐃→‪‪❤︎‬100‪‪❤︎

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生理になってディアソムニアに保護されただけなのに

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