見ててください

老婆が逝って、2人はもう来ないと決めていたが、初七日に、時間を合わせて行ってきた。渡辺があまりにも泣くので、親戚の田代さんが言う。

田代ー坊があんまり泣くと、婆が安心出来ん、泣くでない。

渡辺は懸命に涙を堪えている。

目黒が硬く手を握り締めている。

田代さんが小さな袋を持ってきた。

匂い袋らしい。メンバーカラーに小さな鈴が付いた物。

田代ーメンバーカラーっちゅうんじゃろ？婆に聞かれて、わしも分からんから孫に聞いた。合うとるかの？

目黒ーはい。ありがとうございます。

2人は匂い袋を持って帰って来た。

今から練習。

老婆が、どこかで見ててくれるみたいに、顔を洗い、張り切ってスタジオに向かう。

目黒の家。

渡辺ーもう泣かない。

目黒ーん。

渡辺ー寂しいけど、俺には目黒がいるし。

目黒ーふふふ、お誘い？

渡辺ーばか。

目黒ー今日は、大人しく寝ようね。

渡辺ーあっ、何？いつも俺が誘うみたいな言い方！

目黒ー違うの？

渡辺ーお前が、俺に抱きついて、それから、えっと、あの、いい！

目黒ーふふふ。

渡辺ー寝る！

目黒ーお風呂入んないと。

渡辺ー早くねぇ。

目黒ーはいはい。

シャワーの下でキスして、この日は、大人しく寝た。

渡辺は、目黒に引っ付き涙を滲ませて寝ていた。

忙しい毎日は、感傷に浸る間もない。ただ、家に帰ると、どこからか、匂い袋の匂いがしてくる。

渡辺ーただいま。

返事はないけど、深呼吸する。

匂いを胸いっぱい吸い込んで、自分の家に帰ると、最近は玄関で立ち尽くす。

目黒の家。

目黒ー晩ご飯出来たよ？

渡辺ーんっ。

目黒ーどうした？テレビ見て泣いてる？

渡辺ーあの海に似てる。

目黒ーあぁ、消すよ。

目黒の膝に座って食べさせてもらっている。

食べないという選択肢はない。

もうすぐ始まるスタジアムライブ。

それまでに痩せてたら困る。

「もう少し頑張って食べな」と言われて、食べている。

渡辺ーもういい。

目黒ーよく食べたね。

渡辺ー洗い物する。

目黒ーそう？お風呂してくるよ。

役割り分担して早くゆっくりしたい。目黒が後ろから抱きついてくる。

渡辺ーまだ、洗ってる。

目黒ーお湯溜まるのまだかかるから。

渡辺ーだから、何？

目黒ー翔太くんに甘えてるの。

渡辺ー重いわ。

目黒ー小さ過ぎ。

渡辺ーあっ、言ってはならんことを！

目黒ー事実だけど？

渡辺ーえ〜え〜小さくてすみませんね！

目黒ー可愛いだけなんだけど。

渡辺ー可愛いって褒めてないし、嬉しくないし！

目黒ー怒ってこんな可愛いの、翔太くんくらいだよ？

渡辺ー30過ぎた、おっさんな！

目黒ー可愛い可愛い。

渡辺ーザーザー言ってるけど？

目黒ーあ〜お風呂〜。

走って行く目黒を見て笑う。

目黒ー溢れてた〜。

渡辺ー浸かれないじゃん。

目黒ー湯船のお湯で身体洗って？

渡辺ーはぁ・・。

何でもない日常で、笑えるのがいい。やっと、渡辺も大笑い出来るようになった。