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骨折の治療は何ヶ月単位だった。何ヶ月も一緒に過ごしていくうちに、マリアさん…マリアと、アカネ君の人となりを知るようになった。
マリア「ねぇ、ベツさん。」
ベツレヘム「どうかしましたか?」
マリア「私達敬語をやめませんか?私はもっと貴方と親しくなりたい。」
そう言って、私の手にマリアは自分の手を重ねる。労働者の手だ。なんの仕事をしているのかは知らない。でも、努力家で立派な母親の手だ。マリアの顔はやつれていたが、それでも元気そうに振舞っていた。
マリア「どう…?」
ベツレヘム「ど、どうもなにも…ず、随分と恥ずかしいことを…」
気づけば顔が真っ赤になる。マリアはただただじっと見つめ、にっこり笑う。
ベツレヘム「…わ、わかった。…私も…その…親しくなりたい…。」
マリア「やったぁ!」
顔から火が出そうになりながらも、答えるとマリアは無邪気な顔で笑った。その顔がとても可愛くて、愛おしかった。心の底からこの2人を支えたい、助けたいと思った。自分のことなど顧みず、見ず知らずの人を助けるこの2人を。
アカネ君はよく、1人で森に行くことも多かった。でも1人で行く時はその理由は一切教えてくれなかった。…今でも、あの子が森に行ってた理由は知らない。
その日、私は足が大分回復し森の方でリハビリをしていた。足場の悪い森をリハビリ場所に選んだのは、その方が早く慣れると思ったからだ。…それとカイオスがここに迎えにくるとのことだったので、直接顔を早く見たかったからだ。カイオスはあまり多くの人と会いたがらない。だから森から来ると思った。
だから異変に気づくことが出来なかった。森は足場が悪く、思っていた以上にあの二人の元に帰るのが遅れた。普段はアカネ君に背負ってもらってるのでここまで、足場が悪いとは思わなかった。
耳がぴぴっと動く。
ベツレヘム「銃声…?」
弾丸の低い音が鳴り響く。人間には聞こえない音が。
ベツレヘム「あの方向は…」
音の出処を探した時、顔が青ざめた。あの方向は、マリアさん達の家だ。急いで、彼女達の元に走る。何度も転んで、すぐ立ち上がり走る。間に合え、間に合え!強く念じた。近づくに連れ、家が燃え上がってる訳でもないのに、焦げ臭い匂いがする。アカネ君だ。…魔法にはある法則がある。
襲撃者「ちょこまかとっ…!」
アカネ「大人しく殺されるわけないでしょう」
そう言うアカネは淡々とした声で喋っていたが、その体は喋るのも限界なほど既にボロボロになっていた。マリアが何度も、アカネに応戦しようとするがアカネに遮られる。
アカネ「母さんは戦えないでしょう。」
獣人には2種類いる。亜種と原種。亜種の中には極わずかではあるが、身体能力が低い者がいる。それは進化か、退化か、それは誰にも分からない。ただ、今が比較的平和なことである象徴なのは確かだ。マリアはその極わずかな平和の象徴だった。だからアカネ君はマリアに戦わせないようにした。…その結果は散々なものだった。私が来た頃には既に重症を負っていた。怒りか、血か、どれが私を刺激したかは分からない。身体の毛が毛深くなり、しっぽがぼわっと膨らみ、爪が伸びる。我を忘れて、無我夢中に殺した。
イドゥン教信者アロン「悪魔の味方をする者は全員魔女だ!イドゥン教に仇なす者!全員まとめて殺せ!」
テッセ「無理だこいつ、早すぎる!」
ヴォン「原種かよ!ドラ猫風情が人間様に勝てると思うなあがっ!?」
ベツレヘム「ううぅあぅううう!」
腹を思い切り殴るとヴォンは口から血を出す。
ヴェロニカ「ヴォン!」
ベツレヘム「ドラ猫風情が…何?」
ヴォン「ゲホッゴホッ…こいつイカれてやがる!」
構わず、ヴォンを殴り続けると体が痙攣し動かなくなった。アカネが再び火球を放とうとすると、火はアカネの手の中で消えてしまう。
アカネ「…!」
テッセ「あの悪魔もう魔力がないぞ!」
ヴェロニカ「悪魔がなければただの子供よ!」
アカネ「グルルルルル!」
アカネが低い唸り声をあげ、威嚇する。
アロン「邪魔するんじゃねぇ!」
アロンがそう言い放ったと同時に、私は骨折をしていた方の足を打たれる。
ベツレヘム「うぐぅっ…!」
アカネ「ベツさん!」
足を打たれ、思わずよろける。まだ本調子でない体では思うように動かなかった。
ベツレヘム「フシャアアア!」
出来たのは威嚇くらいだった。
アカネは周りを見渡すと、家の方に目を向ける。
しかし、それを遮るように銃弾が飛ぶ。
アカネ(考えてる暇はない…!)
炎は自然現象で生まれるものだ。アカネは覚悟を決めたような顔をした後、家を、燃やし始めた。
テッセ「正気か!?こいつ…家を…!ゴホッゴホッ…」
火事で煙が充満する。その間にも、私は殺し続けた。煙で私自身も動きが鈍っていたが。
マリア「ゲホ…」
アカネ「…!母さん…!」
アロン「今だ!」
アカネがマリアを心配し、向きを変えるとすかさず、アロンが後ろから振りかぶり手にかけようとする。
ベツレヘム「アカネ君…!」
ひゅっと風を切る音が聞こえた。
アロン「…あ?」
アロンが腹を見ると、アロンの腹に矢が突き刺さっていた。
カイオス「ベツ、お前また面倒事を…!」
ベツレヘム「ひぃ!ごめんなさい!」
マリア「…一体…」
混乱している3人に乗じてアロンは家の外に逃げ出す。
ベツレヘム「っ…!」
追いかけようとしたが、すぐに足を止めた。私は手負い、カイオスは元軍人といえども、もう今はまともに戦えない。今だってその手に握られたクロスボウが、遠目に見ても分かるほど震えていた。恐らく本当は頭を狙ったんだろう。アカネ君は魔力切れ。マリアは戦えない、尚且つ私達も煙の影響を受けないわけじゃない。
マリア「ゲホッゴホッ…」
ベツレヘム「っ…!」
相手はまだ1人まともに戦えてる。マリアは今すぐ逃がさないと。頭がまとまらない。元々私は単独作戦ばっかりだ。集団作戦なんて向いてない。でも、今ここで、私が、私がやらないと、カイオスはどこまで情報の把握を
カイオス「ベツ、お前はその咳き込んでる人を担いで一緒に避難しろ。」
ベツレヘム「カイオス…」
カイオス「行ってこい。すぐに追いつく。」
ベツレヘム「…分かった。マリア、こっち」
ヴェロニカ「させるものですか…!」
アカネ「母さんに手は出させないよ。」
ヴェロニカ「っ…!」(火で前がまともに見えない…!)
カイオス「お前、自身のみは煙の影響を調節できるな?」
アカネ「頭がいいんだね。うん、僕にとっては火事は起きてないのも同然だよ。でもこれもどこまで持つか…」
マリア「アカネ…!」
ベツレヘム「マリア!今だけは私に従って!」
マリア「子供を置いてく母親が何処にいるのよ!」
私はカイオスの指示通り、マリアを避難させようとしたがマリアは思いの外抵抗した。
アカネ「…母さん、戦いの邪魔になるだけだから。それと、そんな押し付け迷惑だよ。」
アカネ君は何を考えたのか、マリアを冷たく突き放す。しかしマリアも負けじと言い返す。
マリア「私は貴方の母親よ。そんな見え透いた嘘分かるに決まってるじゃない…」
アカネ「あはは…やっぱりだめかぁ。」
アカネはそう言うと、諦めたような笑顔を浮かべヴェロニカと共に炎の渦に囲まれた。
カイオス「くそっ!分断された!」
カイオス「俺が何とか加勢する。ベツは無理やりにでもその人を避難させろ。」
ベツレヘム「…戦えるの?」
カイオス「少なくとも今のお前よりはな。」
ヴェロニカ「おかしい、魔力はもうないはずなのに、どうしてこんなことが…」
アカネ「僕ね、好きなことはとことん知りたくなる性格なんだ。研究好きってところかな。」
ヴェロニカ「なにを…」
アカネ「見て分からない?」
ヴェロニカがアカネの足元を見ると、アカネの足元には干からびたヴォンの死体が転がっていた。
アカネ「君達はお互いを捨て駒と思ってるから気付けなかったんだろうね。」
ヴェロニカ(この一瞬で死体が干からびるはずがない…ということはこれは…)
アカネ「ふくよかなおかげで全回復できたよ、良かった。」
ヴェロニカ(やっと弱らせたのに…こんなの私ひとりでどうやって…)
アカネ(魔力の回復は出来たとはいえ、体はもう限界に近い…連発はできないな…)
カイオス「おい、ここを開けろ!」
アカネ「ごめん、それは出来ない。」
ベツさんの様子から見て、恐らくはベツさんの仲間。以前に少しだけ話してもらったことがある。「フェニックス」の1人なんだろう。とはいえ見ず知らずの他人を巻き込む訳には行かない。これはあくまでも僕の問題だ。それにどうやら戦いに何か恐怖を抱いているように見える。そんな人を戦わせるには行かない。
アカネ「今更交渉とかどう?」
ヴェロニカ「無理ね、私にも譲れないものがあるの。」
アカネ「あはは、だよね。君も死にたくはないもんね。」
アカネの悪魔特有の瞳はヴェロニカをまっすぐ捉える。ヴェロニカはそれをものともせず、淡々と答える。
ヴェロニカ「ええ。悪魔がなんでそんなこと知ってるのか分からないけど。」
アカネ「『炎』と『死』の研究が好きなだけだよ。」
ヴェロニカ「悪趣味ね。」
アカネ「研究せざるを得なかったのは君達のせいだけどね。」
ヴェロニカ「あらそれはごめんなさい。」
弾丸と炎が飛びかう中、ヴェロニカは思ってもいない謝罪をする。アカネは気にせず攻撃を続ける。
ヴェロニカ「私達随分と長いこと生きてるけど案外相性良かったのかもね。」
アカネ「最悪の間違いでしょ?僕はゴメンだね。」
アカネの耳がぴぴっと動く。天井からミシミシと木の悲鳴が聞こえる。それを聞いたアカネは後ろに避難する。
ヴェロニカ「あら、怖気付いたの?」
アカネ「まさか。」
アカネが追い討ちをかけるように天井に火球を放つ。
ヴェロニカ「どこに打って…」
ヴェロニカが上を見上げる。
ヴェロニカ「あ」
天井の木材はヴェロニカを待つことなく、容赦なく落ち、ヴェロニカを潰す。
ヴェロニカ「…はぁ。あんた本当に子供?」
アカネ「人間に換算したら8歳だね。」
アカネは淡々とヴェロニカの手から離れた銃を手に持つ。
ヴェロニカ「降参よ。もう骨ほとんど持ってかれた。これ重たすぎて銃取り返せそうにもないし。」
アカネ「そう。」
アカネはヴェロニカの頭の正面に、銃を突きつける。
ヴェロニカ「来世は別の国に生まれられるよう祈ってくれない?」
アカネ「嫌だね。一生生まれ変わらなくていいよ。」
銃の乾いた音が、炎に囲まれた中響いた。
アカネ「終わった…。」
アカネが膝から崩れ落ちる。それと同時に炎の渦は消える。
カイオス「お前大丈夫か!?」
ベツさんの仲間が僕の元に駆け寄ってくる。
アカネ「…勝ったよ。」
カイオス「なんて無茶を…」
アカネ「これは僕の問題だからね。ところで母さんは、ぶ…じ…」
体がじんわりと熱くなる。下を見ると胸周りに一面鮮血が広がっている。
アカネ「あはは…どうやら勝ててなかったみたい。死んじゃうなぁこれは。」
ああ、どうしてそんな他人の為に怒れるんだろう。この人は。初対面なのに。
アロン「ははは、みろ!悪魔は討たれた!」
アロンが窓から雄叫びをあげる。
カイオス「っ…!この野郎!」
アロン「そんな震えた状態で照準が合うわけないだろ!ざまぁみろ!」
カイオス「…。」
カイオスの矢はアロンの横髪を通っていく。
カイオス「くそ…!」
アロン「おっと。」(嘘だろ、あんな震えた状態でここまで照準を合わせられるのか…!?悪魔は討てたし、早いとこ撤退撤退…)
カイオス「待てお前…!」
カイオスが追いかけようとすると、くんっと服を捕まれ、反対方向に引っ張られる。
カイオス「…お前…。」
アカネ「アカネだよ。」
アカネは苦しみながらも笑顔を浮かべる。
アカネ「意外と…喋れるものだね…。」
カイオス「今、手当を」
アカネ「無駄だよ。」
カイオス「やってみないと…!」
アカネ「…君はどれくらい早く手当が出来るの?」
カイオス「………」
アカネ「げほっ…お願い、もう長くないんだ。」
血流が逆流しているのか、アカネの口から血が出る。
アカネ「僕の、遺言を聞いて欲しい。それと、君は悪魔の味方「フェニックス」なんでしょ?ごほっ…頼みを聞いて欲しい。」
カイオス「…必ず成功させると誓おう。」
アカネ「さいごに、いいわすれ…直接…言いたかった…なぁ…」
カイオス「ああ。」
アカネ「かあさ、あいして、るよ。ずぅっと。」
カイオス「必ず伝える。」
カイオスはそう言うとアカネの瞼をそっと下ろす。
カイオス「…どうして俺はいつもこうなんだろうな。」
燃え尽き、周りは灰だけになった。