テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第93話 〚金色の静けさと、帰り道〛
― 澪視点 ―
ホテルを出ると、
朝の空気は少しだけ冷たかった。
三日目。
もう、帰る日。
バスに乗る前、
最後に向かったのは金閣寺だった。
水面に映る金色は、
思っていたより静かで、
きらきらしているのに、
不思議と落ち着く。
「きれい……」
誰かが小さく言って、
みんなが同じ方向を見る。
その横で、
海翔がさりげなく、
私の立つ位置を少しだけ変えた。
何も言わない。
でも、
人の流れから外れない場所。
私は、
それに逆らわずに立っていた。
写真を撮って、
少し歩いて、
時間が来る。
「じゃ、バス乗るぞー」
先生の声で、
現実に戻る。
バスの席は、
行きと同じようで、
でも少し違った。
私は、
窓側。
隣には、
海翔。
バスが動き出すと、
京都の景色が
ゆっくり後ろに流れていく。
楽しかった、
って言い切れるほど、
単純じゃなかった。
でも。
怖かっただけ、
でもなかった。
守られたこと。
一人じゃなかったこと。
それは、
ちゃんと心に残っている。
バスの揺れが心地よくて、
少しだけ、
まぶたが重くなる。
「寝てもいいよ」
海翔が、
小さな声で言った。
私は、
うなずくだけで、
目を閉じる。
金色の建物。
人混み。
呼ばれた名前。
全部が、
遠ざかっていく。
家に帰れば、
また日常が始まる。
でも――
この三日間で感じた違和感も、
安心も、
きっと消えない。
それでいい。
そう思えたのは、
バスの隣に、
変わらず誰かがいるから。
エンジンの音に揺られながら、
私は、
静かに帰り道を進んでいった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!