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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第94話 〚境目だった三日間〛
― 担任視点 ―
修学旅行が終わって、
教室に日常が戻った。
机の配置も、
黒板の予定も、
何も変わっていない。
……はずなのに。
私は、
はっきりと感じていた。
(あの三日間で、
何かが決定的に変わった)
出席を取りながら、
生徒一人ひとりの顔を見る。
澪は、
前より静かだ。
笑ってはいるが、
周囲を見る回数が増えた。
海翔は、
以前よりさらに周囲を気にしている。
無意識に、
澪の位置を把握している。
――修学旅行前より、
はっきりしている。
「守る側」と
「守られる側」。
そして、
その外側で、
距離を測り損ねている生徒がいる。
真壁恒一。
西園寺恒一。
二人とも、
同じ「恒一」という名前を持ちながら、
危うさの種類がまるで違う。
だが、
共通している点がある。
相手の意思より、
自分の感情を優先してしまうこと。
修学旅行中、
私は「大事にはならなかった」と
判断してしまった。
夜も越えた。
事故も起きなかった。
だから、
それでいいと思ってしまった。
……それが、
間違いだった。
問題は、
起きなかったかどうかじゃない。
起きかけていたことを、
見逃したかどうかだ。
澪は、
助けを求めなかった。
でもそれは、
平気だったからじゃない。
「言わなくても、
誰かが気づいてくれる」と
どこかで思ってしまったからだ。
それは、
良いことでもあり、
危険なことでもある。
海翔は、
それを一人で背負おうとしている。
私は、
それに甘えてしまった。
(修学旅行は、境目だった)
ここから先は、
同じ対応ではいけない。
誰か一人の“善意”に
安全を任せてはいけない。
教師として、
大人として。
私は、
明確に線を引かなければならない。
チャイムが鳴る。
澪が席に着く。
海翔が少し後ろを見る。
真壁恒一は、
まだ状況を理解していない顔をしている。
――だからこそ。
この先は、
「見守る」だけでは足りない。
修学旅行は、
楽しい思い出で終わらせるべきだった。
だが同時に、
はっきりとした警告でもあった。
私は、
二度と同じ見落としはしないと、
心の中で静かに決めた。