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送ったメッセージに、既読はつかなかった。
舜太だって忙しいやろうし、スマホを見てへんことくらいある。俺だって、メッセージを開かずにそのままにしてしまうことはある。
だから別に、最初は気にせず仕事をしていつも通りに過ごした。
次の日、スマホを確認しても既読は付いていなかった。
いつもなら、遅くても何かしら反応があった。スタンプでも、既読だけでも。
こんなことは初めてやったけど、まだ心配することじゃないと思った。
そう思って、俺はもう一度メッセージを送ろうとした。でも、何を送ればええのか分からんくて、結局辞めた。
その日の夜になっても、既読はつかなかった。
次の日も、その次の日も。
舜太はどんなことがあろうと連絡をまめに返す人だった。
『元気にしてる?』
こんな短い言葉すら、届いているんかも分からへん。
俺はしばらく考えた後、通話ボタンを押した。
何度呼出音がなっても、電話は繋がらなかった。
何度掛けても、時間を空けて掛けてみても、出なかった。
連絡が取れへん、ただそれだけやのに胸の奥がざわざわしてきた。
最後に話した会話を思い出してもいつもどおりの舜太ばっかり。
ほんまにいつもどおりやったその会話が、最後になるなんて思ってもみなかった。
試しに柔太朗にも、電話を掛けてみることにした。
辞めてから、柔太朗とは全くと言っていい程連絡を取っていなかった。
もともと、俺が個人的にやり取りしていたのは舜太のほうやったし、二人が辞めてからは、必要以上に踏み込まんようにしていた。
それでも今は、そんなこと言ってる場合じゃないと思った。
柔太朗なら何か知っているかもしれないと思い、電話を掛けた。
柔太朗も、舜太と同じように電話は繋がらなかった。
たまたまスマホを見ていないだけかもしれへん。
そう思いたかったけれど、頭の中では嫌な考えばかりが膨らんでいく。
何も分からへんのに、勝手に悪いほうへ考えたらあかん。
俺はそう自分に言い聞かせて、もう1度2人に電話を掛けたけれど やっぱり、出なかった。
昔、グループで活動していた頃、二人が一緒に住んでいた家があった。
辞める少し前から、二人がそこで暮らしていることは知っていた。
何度か遊びに行ったこともある。
何かあったと決まったわけやないけど、俺は、その家に行ってみようと思った。
ただ 元気かどうか確かめたい、 そう自分に言い聞かせながら俺は家を出た。
道中、何度もスマホを確認したけれど通知はなかった。
スマホを見てないだけで着いた頃には、普通に笑って迎えてくれるかもしれへん。
「太ちゃん何しに来たん?」
なんて舜太が言ってきたら、俺は
「連絡くらい返せや」
と文句を言えばいい。
そういうことをずっと考えていた。
そうでもないと、別のことを考えてしまいそうやったから。
重い足を引きずりながら、歩いていると家に着いた。
俺は、もう1度スマホを取りだしてもう1度電話を掛けることにした。
やっぱりどちらに掛けても出なかった。
ただ、二人に会いたかった。
元気な顔を見て、安心したかった。
それだけやのに。
俺は玄関の前に立って、呼び鈴を押した。
返事は帰ってこなかった。
もう1度押してみても、何も聞こえなかった。
「舜太ー?おるんやろー?」
名前を呼んでみた。
いつもなら返事が聞こえるはずやった。
「はーい」
あの少し伸びた返事。 あるいは柔太朗の面倒くさそうな声。
とりあえずどっちでもいいからその声が聞こえて欲しかった。
けれど、いくら待っても返事はなかった。
俺は、試しに手を掛けてみると鍵はかかっていなかった。
「……お邪魔します」
そう言ってドアを開けると中は薄暗かった。
「舜太も柔太朗もおるんやろ?」
自分の声が壁から跳ね返るだけで、何も返事はなかった。
そういいながら俺は奥の部屋へ進んだ。
その先の光景を、俺は今でもうまく言葉にできひん。
2人はそこにいた。ずっと探していた2人は、 彫刻のような美しい顔をして抱き合っていた。
けれど、何度呼びかけても返事はなかった。
何度も掛けた電話も、沢山送ったメッセージも2人にはもう届かないんだと分かった。
俺はその場から動けなくなって、何を考えたらいいのかも分からんくなった。
頭の中が真っ白になって、さっきまで考えていたことが、全部どこかへ消えていった。
ただ、ふたりがもう俺の知っている日常には戻ってこない。
そのことだけが、嫌になるほどにはっきりしていた。
「…なんでやねん」
やっと出た声は、普段の自分からは想像できないくらい小さかった。
怒っているわけでも 責めたい訳でもなかった
俺はその場に座り込んだ。
何かせなあかん、誰かに連絡せなあかん。そう思うのに指は動かかなかった。
勇斗にも仁人にも連絡しなあかんのに、 それでもスマホを握った手が震えて、画面をうまく操作できなかった。
さっきまで、二人に会ったら何を言おうか考えていた。
「連絡くらい返せや」と怒って、「心配したんやぞ」と文句を言うつもりやった。
俺はただ、みんなで楽しく過ごしたかった。
警察や救急への連絡を済ませてから、俺は玄関の外へ出た。
気づけば、勇斗と仁人にも連絡をしていた。
電話の向こうでは勇斗が信じられなそうに何度も何度も「嘘だろ」と繰り返していた。
仁人に電話をしても、しばらくは口を開かなかった。
やがて、小さな声で呟いた。
「…太智、今どこいるの」
「舜太と柔太朗の家」
それきり、言葉が仁人も俺も何を話せばいいか分からなくて出てこなかった。
電話を切った後、俺はもう一度スマホを見た。
俺は、届かないと分かっていたけれど舜太とのメッセージに『会いたかった』と送った。
そこから俺はスマホを握ったまま、その場に立ち尽くしていた。仁人と勇斗に何をどう説明したかもよく分からない。ただ、2人に来て欲しいと伝えたことだけは覚えている。
少しして、玄関の方から足音が聞こえた。
「太智!!」
息を切らしながら駆け寄ってきた勇斗は、俺の顔を見るなり、何かを言いかけて止まった。相当俺の顔が酷かったんやと思う。
「……2人は?」
そう言っていた勇斗の声は、少し震えていた。
思い出すだけで苦しくて、俺は答えることができなかった。
勇斗は俺の横を通り過ぎて、家の中へ入っていった。
「柔太朗?舜太?」
さっきまで俺が呼び続けていた名前。
返事がないことなんて分かりきってるはずやのに、名前を呼び続けていた。
しばらくして戻ってきた勇斗は、何も言わずに俺の隣に腰掛けた。
「……俺さ、さっきまで舜太にも、柔太朗にも普通に会えると思っててん」
「電話してても出えへんから心配になって。ここ来たらなんやねんって言われながら笑われるんやと思ってた」
「連絡返せって怒るつもりやってん。…飯も行こうやって、言おうと思っててん。」
勇斗は顔を覆いながら、肩を揺らして泣いていた。俺は、勇斗が泣いているのを見て、初めて自分も泣いていることに気づいた。
ただ、二人に会いたかった。
ほんの少し前まで、それだけやったのに。
それから20分程経ってから仁人が来た。
俺は仁人に届くように、柔太朗と舜太が居るところへ目線を向けた。
「……嘘でしょ、ねえ嘘って言ってよ」
やっと聞こえたその声は、酷く掠れていた。
それから俺らはしばらく何も話さなかった。
勇斗も仁人もいつもならこんなときでも何かしら言葉を、探してくれる人やけど今日だけは違った。
「……帰りたくないな」
「勇斗どういうこと?」
「いや、なんか帰ったら、本当に終わっちゃう気がして」
「ここ出たら、もう2人に会えないんだって、…ちゃんと分かっちゃいそうでさ」
「……じゃあさ、また来ようや、3人で」
2人はもう居ないのに自分でも何を言っているんだろうと思った。ここに来たって何も変わらないのに、それでも2度と来ない場所にはしたくなかった。
「……うん、そうだね」
それだけの約束やった けど、そのときの俺らには、それくらいしかできることがなかった。
「……太智、帰ろう」
「…うん」
玄関を出る前、1度振り返るとそこには2人の靴があった。まるで今にも2人が帰ってきそうだった。
「…またな」
そう呟いて、ドアを閉めた。
コメント
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「既読がつかない」だけでじわじわ不安が積もっていく序盤が、静かなのに本当に怖かったです。太智が「連絡くらい返せや」と怒るつもりだった台詞が、もう届かないと分かる瞬間が苦しくて。最後に玄関へ残った二人の靴と、「また来ようや」の約束がずしんと残りました。続き、静かに待ってます🌙