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教室の空気がざわついていた。

誰が言い出したのかもわからない──けれど、今日の“見もの”は、最初から決まっていた。

蓮司が登校してきて、遥の机の横に当たり前のように座る。それだけで、視線は集中する。


日下部もまた、教室の隅で静かにそれを見ていた。

まっすぐ、遥の様子だけを見ている。その目が、遥には焼けつくように痛かった。


(……信じさせたい)


──なにを?

そんなもの、遥にもよくわからない。

ただ、日下部のあの「お前、泣いてた」って言った声が、まだ耳に残っている。


「蓮司」


不自然に明るく、遥は声を出した。


「……昨日さ、ありがとな」


周囲がざわめく。

蓮司は、手を頬に当てながら面倒くさそうに笑った。


「何の話?」


「……ああ、あれ。……うん、俺、ほんとに……蓮司のこと、好きだよ」


一瞬、空気が止まった。


蓮司が眉をぴくりと動かす。

それは、遥が一歩“演技の深みに踏み込んだ”ことへの反応だった。


遥の声は震えていた。

でも、彼の目はまっすぐだった──いや、“まっすぐに見せようとしていた”。

ほんの少し、涙が滲んでいたのも、演技だった。


「……好きすぎて……馬鹿みたいだよな、俺……」


言いながら、自分でも吐き気がするほど気持ち悪かった。

何を言っているんだ、と頭の奥では叫んでいた。


でも、やるしかなかった。

これが嘘だとばれたら、すべてが終わる。


(──信じてよ)


そんな思いで、遥は蓮司の袖をつかんだ。

指先がかすかに震える。

だが、笑った。


──歪な笑顔だった。

「好き」なんて言葉が似合う表情ではない。

けれど、それを見た蓮司は、くっ、と喉を鳴らした。


笑いを堪えている。


「……へぇ」


低く笑ったあと、蓮司はわざと教室中に聞こえるように言った。


「じゃあ……今日はちゃんと、恋人らしくしよっか。なぁ、“俺の”遥?」


ざわり、と空気が揺れた。

日下部が、ほんの少し、目を伏せたのを遥は見逃さなかった。


その瞬間、遥のなかで何かが確かに「崩れた」。

これは演技。恋人ごっこ。

なのに、それ以上に、望んでしまった。


(……ちゃんと見て。俺は……“こいつのもの”なんだよ)


胸がきゅうと締めつけられる。


けれど、蓮司の手が肩を抱いたとき──

遥は、無理やりにでも笑ってみせた。


それはもう、“壊れかけの人形”の笑みだった。


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