テラーノベル
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「ど、どどどっ、どうしよう……。何着ていけばいいの!?」
クローゼットをひっくり返す勢いで服を選び始めるが、どれを手に取っても「違う」気がしてならない。
普段は着心地を優先したユニセックスな服を選ぶことが多いが、今日に限っては「デート」という呪文がそれを許さなかった。
女らしさを前面に出すべきだろうか。でも、あまりに気合を入れすぎて期待していると思われるのも恥ずかしい。そもそもナオミの趣味も好みも、何一つわからないのだ。頭の中で様々な想定と妄想が渦巻き、収拾がつかなくなっていく。
「何やってるの? 早くしないと置いていくわよ」
「ひゃいっ!」
ドア越しの凛とした呼びかけに飛び上がり、結局は迷った末に無難な黒のカットソーと膝丈のスカートを選び、コートを掴んで部屋を飛び出した。
けれど、玄関で待っていたナオミの姿を見た瞬間、穂乃果は開いた口が塞がらなくなった。
いつの間にか完璧なメイクを施したナオミは、漆黒のジャケットにタイトスカートを合わせ、そのスラリと伸びた脚をブランドもののロングブーツで包んでいる。栗色のロングヘアは艶やかなウェーブを描き、ふわりと香る香水の匂いさえも計算尽くされているように感じられた。
どこからどう見ても、誰がどう見ても、完璧な美貌を持った『女性』。
その圧倒的な華やかさは、昨夜の、あの剥き出しの男性的な匂いなど微塵も感じさせない。さっきまで「デートかも?」などと一人で浮き足立っていた自分が、途轍もなく愚かに思えてくる。
(そうだった……当たり前だ。ナオミさんは、私と同じ女性として暮らしているんだから)
あんな風に心拍数を跳ね上がらせていた自分を、今すぐ消し去りたかった。
隣に並ぶことさえ躊躇われるほど美しい『彼女』の姿に、穂乃果は昨夜の熱情がすべて、遠い場所の出来事のように感じられて仕方がなかった。
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あや