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「大森さんって、凄く表現が繊細で美しいですよね」
隣に座ってきた鼻にツンとくるような匂いを付けた、20代くらいの女性がそう言う。この人は確かシンガーソングライターの新星として紹介されていた。何度か視線を感じたがそういう事だったのか。
「なんというか、天才なんだなあって。大森さんのそういうとこはずっと変わらないで欲しいです。やっぱり私も作詞作曲してるから親近感湧いちゃうな。」
そこまで言うと、幹事らしき人が飲み物を聞いてきた。今日は呑む気分じゃないし、コーラでとだけ言う。
「あ、私ビールで。そうそう、私お酒好きなんですよね〜。よく1人で昼から晩酌しちゃうこともあって。これが結構楽しいんですよ〜。大森さんは普段飲まないんでしたっけ?」
聞いてもないのに自分語り、付け加えた様な質問。会話のペースが合わないな、この人は、と思った。
「まあ。メンバーだけで集まった時くらいですかね」
敢えてメンバーというのを強調する。だが彼女には無意味で、そうなんですね〜と中身空っぽの相槌が返ってきた。その後も連絡先を聞こうとしてきたり、今後の活動について言ってきたりしつこかったので、二次会が始まるにはだいぶ早い時間で失礼させて貰った。
イラつきとも寂しさともいえる感情を募らせながら足早に、帰り道にふと君の顔が思い浮ぶ。今から行ったら迷惑かな。そもそも起きているのか。色々考えながらコンビニに足を運べば、気付けば君の好きなものを持ってインターホンを鳴らしていた。慌てて出てきてくれた君は、ほのかにシャンプーの香りがしていて。無性に嬉しくなり、顔が赤くなっているかもしれないと焦る。急いでビニールを突き出す。受け取ったのを確認し、心臓の音が聞こえてしまわないよう、申し訳ないと感じつつずけずけとお邪魔した。
最初はミセスの仕事についてだったが、涼ちゃんの、目を見てすごく考えながら、ちゃんと話を理解してから相槌をくれる聞き方に改めて良い人だな、と思い直す。自分でもこんなこと話すんだというくらいすらすらと言葉が出てくる。それにともない、募らせているもやついた感情が小さくなっていった。君は一見話を聞きいてないように見えるタイプだが、誰よりもちゃんと「聴く」人だから。やっぱり、あの時誘えたのが涼ちゃんで本当に良かった。
眉間にみるみるシワが寄り、すんごい顔で考え始めたのを笑いあった後、感謝を伝えるのは今しかないと思い口を開いた。あの時メンバーになってくれてありがとうって。が、先程自分で言った言葉がフラッシュバックする。俺こそ、縋るために変わるなって言おうとしてる奴じゃないか。
じくじくと後悔が襲ってくる。結局俺も自分が嫌いな奴らと同じだな。
折角話して聴いてもらって小さくなった感情を、自分の言葉で膨らませてしまった。
◻︎◻︎◻︎
読んで下さりありがとうございます!
変化って難しいですよね。大森さんも言っていましたが、時間は流れるのに置いてかれる事に近いと思います。ちょっとずつ前を向いていく2人を見守って貰えると幸いです。
そういえば、フォロワー様が60人を超えました!前も最後に書きましたがいつか記念作品を載せれたらなと思っています。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。