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「別れよう」
家を出て約2時間後。
1週間振りの彼から言われた最初の言葉が
これだった。
「……え、別れる?」
「うん、別れよ」
彼はそういうと、気でも抜けたかのように息を吐き、
ソファに身体を沈ませた。
手にはスマホを持って、
今まさにご趣味のゲームを始めようとしている。
どうやら家から約2時間かけてやってきた私に対して
彼の言いたいことはこれで全てだったらしい。
「え、ちょ、ちょっと待って、」
「何?」
「いや、何じゃなくて、え、理由は?」
「理由?」
「だから、、別れる理由」
「あー」
「何となく?」
言葉を聞いた後のことはよく覚えていない。
あいつの頬をひっぱたいて、
部屋のドアを思いっきり閉めたのだけは覚えている。
「……何やってんだろ」
人生で最も無駄な2時間を使ったような気分。
あ、でも帰りも含めたらもう2時間かかるじゃん。
「はー、最悪」
この数分間で、
私の彼に対する感情は大きく変わってしまった。
今までどうしてあんな人を好きだったのか。
過去の自分を本当に恥ずかしく思う。
ブー ブー
不意に、スマホのバイブが私の太ももを震わせた。
カメラの思い出機能からの通知だった。
内容は「1年前の写真」。
通知を押すと、そこには
満面の笑みでケーキを頬張っている彼の顔があった。
ああ、そうか。
1年前は確か、
私の家で彼の誕生日パーティーをしたんだ。
私がチョコ苦手だってを知らずに
チョコケーキを予約した彼は
何度も申し訳なさそうにしていた。
「……」
『来年はショートケーキにしよう』
『それでホールごと突っついて、』
『ふたりでお腹いっぱいになるまで食べよ』
本当は、薄々気づいていた。
連絡をする頻度が少なくなったのも。
会う機会が減っていったのも。
「好き」って言われることがなくなったのも。
もう私に、興味がないってことも。
別れを言われるのも分かってた。
でもいざ聞いてみたらもう最悪。
あいつの態度は胸糞悪いし、
理由もハッキリしない彼の言葉に、
怒りは勿論のこと、失望すら感じた。
でも、
一番嫌だったのは、
『別れよ』
「…」
一番嫌だったのは、
何も言えなかった自分だ。
プルルル プルルル
あ、もしもし。
先日ケーキの予約をした者なんですが、
キャンセルをお願いします。
…はい
ホールのショートケーキなんですけど