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天使は死ぬと何になると思う?
そんな言葉を誰かが口にしていた気がする。
天界の、目が痛くなるほど白い景色の中で、その時ぼうっとしていた自分はどう答えを出したのか。
今となっては思い出すことも出来ない。
「た、たすけ……」
「…」
薄れた記憶をたどりながら、同族が喰われている様を、俺はただ傍観していた。
ー ー ー ー ー
これは、物語が始まる前の事。
序章の前の、あらすじにも満たない話。
ー ー ー ー
初めからつまらないと思っていた。
あれもダメこれもダメ。全ては神の為。
己の肉体も、神の力の一端も、背に携えた純白の翼も。
「わたし、まだ死にたくない……」
そう言って涙を流す少女の手を引いて空へ昇っていく様を「美しい」と称する者がいるけれど、自分は全くそうとは思えなかった。
天使とはすなわち、純白の布を被った死神ではないだろうか?
だって、行き先が上か下かの違いじゃないか。
死者を連れて行くということに変わりはないだろうに、天使は死神を嫌い、闇に堕ちる事を忌む。
それと反対に死神は天使を嫌い、光に落ちる事を忌む。
「……疲れた」
毎日毎日、妄信的な仲間と嫌がる人を引き連れ、天界と人間界を行ったり来たり。
肝心の神は代替わりがどうのと不穏な動きをしているのに…一体何が神の為なのだろう。
目に染みる輝く白を恨みがましい気持ちで見下ろしていると、ポンと肩に手が置かれた。
見知った顔だった上に気安く「やぁ、久しぶり」なんて声をかけられて、腹立たしい事この上なかった。
「触んな。あと話しかけんなカス」
「口が悪いよ?過労の所為?君は少し働きすぎな気がする」
「ハッ!誰かさんの分も尻拭いさせられるからとちゃいます?」
「ごめんね、魂が似ている人間がいたから…つい、ね?」
悪びれる様子もなくその“魂が似ている人間”について話している天使をギロリと睨みつけてみたものの、彼は少しも気にする事なく楽しそうに笑っていた。
天使は人間に干渉してはいけない。そんな約束を破って適度に交流を深めている彼は何故他の者と同じように堕天させられないのだろう?
疑問をそのままポツリと口にすると、会話に参加してもらえたのが相当嬉しかったのか、理由を嬉々として語り始めた。
「もともと一つだった魂が細分化される事ってあるでしょ?」
「あぁ、機械故障でたまにあるアレか…」
「その時魂が三つに割れちゃったみたいで」
という事は、彼が元は人間だったという事。
そんな重要なことをペラペラと話してしまって大丈夫なのか?
まぁもとより言いふらす気なんてカケラも無いのだけど。
「一つが僕、一つが人間の僕、一つが死神の僕になって、時間の流れとともに一つ一つが個として成り立つくらいに育ってしまったってわけ」
「要するに、死神のお前には天使のお前の部分もあって?ソイツがある種の堕天だからお前は何しても堕天しないってわけだ」
「そう、元を辿れば同じ存在だからね。世界の理は存在の重複を嫌う」
そんなことを言いながらパタパタと足を揺らしていた彼は、ハッと思い出したかのように手を打った。
「そうそう、その事は置いといて…」
「まだあるんか……」
「僕は君に是非少しバカンスに行ってもらいたい」
「は?」
「君は働きすぎだよ、少し休息するといい」
「…はっ!?ちょ、何勝手に…!!」
驚きで立ち上がると同時に足元がおぼつかなくなる。
雲のふわふわと朧げな地面が霞んで、今まさに地上に降ろさんとしている事が分かって慌てて翼を広げようと背中に力を入れたのだが……
「いってらっしゃ〜い!しばらく帰ってこなくていいよ〜」
「おっまえ…!ホワペェェエエッ!!!!」
一足遅く足元が掻き消え、自然の重量に沿って自由落下を始めた体はぐるりと回転して頭が下向きに落ちて行く。
このままでは30秒ほどで潰れた果実のように俺の頭が漏れなくペシャンコになるだろう。
かと言ってこの状態で翼を広げようとすれば、空気抵抗に耐えきれず羽は折れる。
翼が折れた時の苦痛と言ったらもう…筆舌に尽くし難い。
安心したように笑っていたあのお人好しの彼の事だから、きっと天界の災いから自分を遠ざけてくれたのだろうけど、逆に俺の天命が近付いているようでは意味が無いと思う。
「あー…どうすっかな……」
びゅうびゅうと耳元を通り過ぎる風の音に目を閉じながら腕を組む。
いくら天使といえど、死ぬ時は死ぬ。つい最近までは自分の死因は過労死だろうと思っていたのに、まさか転落死とは……人生は予測不可能とはよく言ったものだ。
「森が近い…地面近くでムリヤリ翼広げりゃあとりあえず死にはしねぇか……」
地面が5mほどの距離になった瞬間、バッ!と勢いよく翼を広げる。
すぐに風圧に負けた翼からミシミシと嫌な音がして激痛に思わず背中を丸めた。
バキバキと木の枝葉を巻き込み途中で静止したところで意識は暗転した。
ー ー ー ー
next?→100♡