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――深夜、スネージナヤ某研究区画
無機質な照明が白く床を舐める。
静寂を破るのは、機械の脈動音と――金属の足音。
カ「……また無断で人体実験か」
低く落ちた声。
振り返らずとも分かる。
ド「おや」
軽い笑みを含んだ声が応じた。
ド「これはこれは……隊長殿。巡回にしては随分遅い時間だ」
博士――ドットーレは手袋越しに試験管を揺らしながら、
愉快そうに肩を竦める。
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カ「規律違反だ」
ド「結果が出れば規律など些末なものだろう?」
カ「……人命を“結果”と呼ぶな」
短い沈黙。
ドットーレはようやく振り返り、
その仮面越しの視線を隊長へ向けた。
ド「君は本当に興味深いな」
ゆっくり歩み寄る。
隊長は動かない。
ド「この組織にいて、未だ倫理を手放さない」
白衣の裾が揺れる距離まで詰め、
博士は彼の胸甲に軽く指を当てた。
ド「壊してみたくなる」
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カ「……試すな」
低い警告。
だがドットーレは笑う。
ド「試すさ。私は研究者だ」
指先が、鎧の継ぎ目をなぞる。
ド「その強靭な肉体も」
「揺るがぬ精神も」
「――私の前でどこまで保つのか」
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次の瞬間。
博士の手首が掴まれ、壁へ押し付けられた。
重い衝撃音。
カ「これ以上は許容しない」
至近距離。
仮面と仮面が触れそうなほど。
だが――ドットーレは怯えない。
むしろ愉しげに息を漏らした。
ド「素晴らしい反応だ、隊長殿」
掴まれたまま、顔を寄せる。
ド「だが君は気づいていない」
囁くように。
ド「力で制しているつもりで――」
ド「観察されているのは君の方だ」
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僅かに力が緩む。
その一瞬を逃さず、
博士は拘束をすり抜けた。
そして耳元で、低く告げる。
ド「安心したまえ。壊す気はない」
ド「今はまだ」
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距離を取り、白衣を翻す。
ド「君は貴重なサンプルだからな」
去り際、振り返りもせず――
ド「次はもう少し長く観察させてくれ」
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残された静寂。
隊長は無言で立ち尽くす。
胸甲に残る、
白衣越しの体温の記憶を振り払うように。
カ「……狂人め」
だがその声は、
どこか僅かに低く――
揺れていた。
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――観察者と被観察者。
優位に立つのは、果たしてどちらか。
深淵だけが知っている。
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