オイル 近道 保志
「徹くんーー!! 大丈夫か!!」
徹くんの声がする円筒形の鉄の下にあるガラス窓を覗く。かろうじて徹くんの顔が見えた。
「おじさん!! 良かった!! でも、ぼくは閉じ込められたんだ! 早く出して!」
「わかった! ちょっと待ってろよー!」
この鉄の円筒形の中に徹くんが閉じ込められているんだ。靴が煙を上げているけど、今はそれどころじゃない!
さて、どうやって助け出そう? このガラス窓を開けるには? いや、ガラス窓は小さすぎるか……?
うーん……?
よし!
多分、ここからじゃ見えないけれど、天井へ向いているこの円筒形の鉄は、きっと空気を入れるために上は穴が空いているに違いない。だから何とかして倒してみよう。
「よーし、 待ってろよ徹くん! すぐに助けるから少しの辛抱だ。この鉄の筒を倒してしまうから、身体を固定させていてくれ!」
俺は助走を掛けて思いっきり鉄の筒に体当たりした。肩が痛いが、鉄の筒は少しグラついた。やった!
後は、両手で押して……。
鉄の筒が倒れた。
「ワッ! 痛いよ! おじさん! それに熱い!」
「え?! なんでだ?!」
鉄の筒の上は穴が空いていなかった……。
「マズイぞ!!」
「熱い! 熱い!! おじさーん!!」
「早く! 早く助け出さないと!!」
俺は半狂乱になって、鉄の筒の至る所を工具箱から取り出したドライバーで叩いた。
「おじさん! 耳が痛いよ!」
「待っててくれ! 今は少し我慢だ! よーっし! ここだけだな!」
鉄の筒の底に取りつけられたガラス窓の四方に、幸いネジが付いていた。やはり、ここが空気穴だ。けれど、空気穴というよりも、穴はここしか付いていない。ドライバーで、ネジを慎重に取り外さなければいけなかった。俺の靴からの煙はモウモウと上がり、床の熱は耐えがたいが、俺も我慢の時だ。
やってやるぞ!
幸運なことに、プラスドライバーしか持っていなかったが、プラスはネジにぴったりと合った。少しゆっくり回してネジを取り外す。また、誰かが、電力を上げやがった!後ろから電力の急激に上がる音が伝わる。熱の性質は伝導。放射。対流だ。だから、すぐには床が熱くはならない。
大丈夫だ!
よし、三本のネジを取り外したぞ!
「……」
「徹くん?」
やばい! 急がないと!!
「やったぜーーー! 取れたぞ! よし! 徹くん。足元から出るんだ! 君の身体が柔らかいことを祈るぞ!」
開いたガラス窓から徹くんが、抜け出して来た。額にびっしょりの汗を掻いているけど、健康そうな赤い顔だった。
「徹くん! 大丈夫か?!」
「……うっ……」
徹くんは目をゆっくりと開ける。
「よし、徹くんはおんぶだな」
「おじさん?」
「よっこらしょ」
ちと、きついが。工具箱もしっかり持って、さあ、変電所だ。電気床の上を走る。靴の煙がモウモウと立ち上り方が強くなってきた。俺ももうすぐ……。噴出する汗をそのままに、走る。変圧器。遮断器。断路器。計器用変成器。避雷器。と複雑なミニ変電所へ辿り着いた。電気工事士の仕事仲間から聞いたことがあった。あの時は、たんなる興味でよく聞いていたけど、こんな時に命が助かる事になんてな……。でも、この場合はミニ変電所のサーキットブレーカーだな。
ええと、ブレーカーを上げればいいのかな?
あ、ブレーカーを入りにすればいいんだったな!