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/10月15日(火).午後4時23分.ーー覆間高等学校 正面玄関/
ここは、とある都市の中にある“覆間高等学校”という場所。
今は、部活動で賑わう放課後の時間。
冬が近くなり、寒くなってきたはずの今日、なぜか汗ばんでいる二人組がいた。
「……!頼むっ!お願いだ!」
玄関前で、声がこだまする。
「…なんで…お前の仕事でしょ……あと声がでかすぎ」
「おこがましいのはわかってる。だが頼む。俺の命がかかってるんだ…!」
「…最近流行りのゲームのレアボス討伐イベントの事でしょ。はぁ…」
「そうだよ!分かってるなら話がはやい。代わってくr」
「やだ」
さっきから結構目立っていることも気にせず、言い争っている。
かれこれ、もう5分も経過している。
「お願いだよぉ~(泣)今日に限ってあの図書室なんだよぉ。このままじゃ討伐時間外になっちゃうからさ、代わってくれてもいいだろぉ~(泣)」
「僕にだってやることあるし、別の人に頼みなよ…」
「そんなこと言わないでくれぇ…お前にしか頼めないんだよ(泣)」
「…ぇ……」
「………僕にしか頼めないの?」
「…!そうそう!ほんと、お前だけが頼りなんだ!…ああ、今日のお前の仕事はやるからさ、 代わってくれ!」
そういい言いながら、職員室の前で立つ青年は勢いよくお辞儀をキメた。
こんなあからさまな誘導に、騙される奴なんていないと思うが…
「ちょっ、恥ずかしいって…!………はあ、ったく、…仕方ない、代わってあげるよ。かわりに僕n」
「!!、ほんとか!?じゃあハイこれ。これが鍵ね。んじゃ、ヨロシク~!!」
「ぇあ、ちょ、待てぇ!ぼっ僕の仕事、代わってくれるんでしょ!?」
「悪ぃ、話してたら時間が押しちゃったから…やっぱそれもお願いするわ。じゃあな!」
「おいぃ!!、ってもう出てっちゃった。…あいつ許さん。」
全然騙された。なんてちょろい男だろうか。
だからいつも、彼はこのようにして面倒な事を押し付けられている。
(まあ、仕事は仕事だし………、やるしかないかぁ)
渋々だが、彼は…蘭川 歩(らんかわ あゆむ)は図書室へ向かって走った。
/午後4時28分.ーー覆間高等学校 古びた廊下/
ハァハァと、荒い息遣いが人気のない廊下にじわじわと染み込んでゆく。
走る度に、どこかから聞こえる部活動の騒がしい声が遠ざかる。
(この学校の図書室、玄関からだと走っても5分はかかるんだよなぁ)
(なんでこんなに遠いんだ…とくに別館ってわけでもないのに)
文句を心の中で零しつつ、先生が周りにいないか確認し、彼は走り続ける。
(本当は廊下は走っちゃ駄目だけど、歩いてたら、日が暮れるくらい長いからなぁ)
(ちょっと前に改修工事があったらしいし、その時に、図書室…せめて図書室までの道でもいいから 整えて欲しかった…)
この校舎の図書室…そしてそこまでの廊下、壁などの道なりは、創立時のままにしてあるそうだ。
何故そこまで執拗にこだわるのかは、先生達すらわからない。
設立者さえ、もうとっくに忘れ去っていることだろう。
7年前の改修工事の計画では、図書室はあまりにも古いということで、リニューアルする予定だったらしいが…結局出来なかったそうだ。
伝統なのか、はたまた誰かが阻止したのか…それは今になっては到底分かり用のない事だ。
だが、補修工事はさすがに施されたそうだ。
(…それにしても、ここから雰囲気も空気もガラッと変わるよなぁ)
(まるで、過去の校舎にタイムスリップしたみたいだ)
廊下を軋ませながら走ること数分、図書室の扉が彼の視界に現れた。
大きな透明のガラスの扉は、何もかもが透き通りそうなほどで、指紋ひとつない。
「…いつもは何気なーく見てたけど、結構おっきいんだな。僕の事なんて、全て見透かされてそう…」
呆気に取られて、少しの間、扉を見つめたあと、彼は本来の目的を思い出した。
「…よし、鍵をかけようっと」
彼はスラックスのポッケに手を伸ばす。
(………いや、このまま終わるの、なんか癪だな…このあとだって結局戻るだけだし)
彼はポッケに伸ばしていた手を引き、次は扉に手を向けた。
そして、とってに両手をかけて、ガラガラと優しく扉を横にずらした。
扉の隙間から顔を出し、キョロキョロと辺りを見渡す。
(…やっぱり誰もいないな。よし、せっかくだから図書室巡りの旅でもしよっと!)
軽快に、でも静かな足取りで、彼は図書室に入った。