まず動いたのは、ifだった。
おもむろに額を掴みあげ振りかざす。
「!!まろ!」
あわててないこがifの手を掴んだ。
「離せよ、ないこ。アニキはきっと、この中に閉じ込められたんや。はやく、出してやらんと…!」
「おちつけって、まろ!」
「止めんなや!早くしないと、アニキが、アニキが連れてかれてまう!」
「まろちゃん!それを叩き壊して悠くんが戻ってくる保証なんてないやろ!壊すことで悠くんまでまきこまれたらどうするつもりや!!」
「……!!」
初兎の一言でifの動きが止まる。
普段からホラーゲームをやっている子供組だ。そんな可能性も当たり前にあると言うことを良く承知していた。
ゆっくりとifの手が下ろされる。そのままぺたりと座り込んだ。
「…とにかく、信じ難いけどアニキがこの中に閉じ込められたという仮説は当たってると思う。このままだと連れてかれてしまう、ってのもね。」
「ないくん…。」
「どうしたらいい?アニキが連れてかれちゃうなんて、僕ヤダよ…。」
「……分からない。でも、このまま見てるなんて無理だ。意地でもアニキを取り戻す方法を見つけてやる。」
ないこはそう言うとパソコンを開いた。何か、解決の糸口になる方法を探す。都市伝説でも、眉唾ものでも、なんでもいい。とにかく情報が欲しい。
ないこは夢中になってパソコンのキーを叩いている。その様子を見たifもノロノロとスマホを取り出し検索を始める。
初兎は額を見つめていた。そっとガラスに触れる。
「悠くん…。」
だんだん指先に力が入った。押さえつけたらそこから動けなくなるとでもいうように。
ビクッと初兎の手が動いた。また、悠佑と少女の距離が縮んだように見えた。
もう2人の距離は手を伸ばせば届きそうな所まできていた。
どうしようどうしようどうしようどうしよう……
不意に視界が陰った。顔を上げると、ホトケが真剣な顔で額を見ている。そのまま初兎の手ごと額を持ち上げた。そして。
「アニキーー!!!!」
「!?!?!?」
喉が張り裂けんばかりの大声で叫ぶ。その声に驚いて他のメンバーもホトケを見つめる。
「い、イムくん…?」
「アニキ、そっち行っちゃダメ!!アニキの帰る場所は、こっちだよ!!!」
「ホトケっち、いきなりどうしたの…。」
「りうちゃん、初兎ちゃんも。ここに描いてあるのはアニキなんでしょ?だったら、僕らの声、届くかもしれないじゃん。アニキはいつも、僕らの声は聞き逃さないもん!」
「……。」
「そうやな。アニキは、そういう奴や。よし、俺らが解決策を探す。お前らはそうやって、アニキをひきとめといてくれ。」
「うん!任せて!アニキー!!」
呆気に取られている初兎の目の前で、声の限りに悠佑の名を呼び続けるホトケ。
「アニキ!早くこっち戻ってきてよ!」
額に怯えていたりうらが、額と少し距離を置いて声を上げた。
2人とも真剣に、そこに悠佑がいるかのように呼び続ける。
初兎も、腹を決めた。
「悠くん!会いたいよ、早く戻ってきて!!」
……くん…………って………にき……
風に乗って、また何か声が聞こえた。
気のせいかと思ったが、また聞こえてくる。
数人が誰かを呼んでいるようだ。
悲しそうにも必死にも聞こえてこちらの胸が痛みそうだった。
「なあ、誰かの声が聞こえる気がするんやけど……。」
聞いてみる。が、少女はいつもの穏やかな顔で少し首を傾げただけ。
聞こえてないんやろか、この声。
声は途絶え途絶えに、でも耐えることなく聞こえてくる。
悠佑がしきりに辺りを見回しているのを見て、少女は悠佑の服の裾をつまんだ。
気になる?
「ん?あ、いや、なんか困ってるなら助けてやらんとかなー思て。」
あっちへ、行きたい?
「え?いや、お前を置いてどこかへは行かんよ。」
頭を撫でると、少女は嬉しそうに笑った。
あの声はまだ聞こえてくる。
正直気になっていた。だが、この子と過ごすこの時に比べたら小さい事だ。
アニキ!
「え?」
つい、声のした方を振り返った。
アニキ…?なんだか懐かしい響きに聞こえた。
ぼんやりとそう自分のことを呼ぶ5人の影が頭に浮かぶ。
「………?」
…………
少女が、悠佑を見つめている。
「…フッ、すまんすまん。さ、今度は何をしようか。」
5人の影を頭から追い払って、悠佑は少女に笑顔を向けた。
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黒くん〜!君の帰る場所はこっち!