朝。カーテンの隙間から射し込む光が、まだ冷たい空気の中に落ちていた。
テーブルにはコーヒーの香り。
でも、いつもみたいな軽い会話はなかった。
涼ちゃんはマグカップを両手で包んだまま、
目を伏せて何も言わなかった。
若井はその横顔をちらりと見て、言葉を探す。
でも、何を言えばいいのかわからない。
昨夜の空気がまだ胸の中に残っていて、
簡単に触れたくないほど繊細だった。
「……昨日は、その……」
若井が言いかけた瞬間、
涼ちゃんは小さくため息をついた。
「……なんか、わかんなくなっちゃった」
その声は冷たくも怒ってもいない。
ただ、少し困ったような、どうしようもない表情。
「ごめん、変な空気にしちゃって」
そう言いながらも、視線は合わせられない。
若井はゆっくりと首を振る。
「……涼ちゃんのせいじゃない。俺も、まだ整理できてないだけ」
二人の間に流れる沈黙は、昨日の夜よりも穏やかだった。
でもどこかで、お互いの心が同じ場所を見つめていることだけは、
なんとなく感じていた。
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