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本気になってはいけない恋

65 - 第65話   明かされる彼の秘密①

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2024年03月15日

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すると、その時、樹の携帯の着信音が鳴る。


「誰だよ。こんな時に」


ブツブツ言いながら、樹が携帯を確認する。


「あっ、ごめん。ちょっと出てもいい?」

「うん。どうぞ」

「もしもし・・・・」


樹が携帯を取って、ソファーから立ち上がって電話相手に応対する。


「はい・・・。え・・・?・・・どこ、ですか。はい・・今から行きます・・」


電話で話している樹の顔が急に不安そうに青ざめる。

明らかに動揺している誰かとの会話。


「樹・・・大丈夫?」


電話を切ってからも、少し茫然としている樹に声をかける。


「あっ・・うん。ごめん。 今、親父が倒れたって連絡あって・・・」

「え・・?」

「今、病院に運ばれたらしくて・・」

「じゃあ、すぐ行かないと!」

「あぁ。うん・・・」


樹は見たことない不安そうな顔でその場を動けずにいる。


「樹!しっかり!病院どこ?私も一緒についてくから」

「うん・・・」


その後すぐに一緒に病院へ向かう為、部屋を出て、マンションに停めてある自分の車を出す。

聞いた病院まで車を走らせてる時も、樹はずっと黙ったまま助手席の窓から見える夜景をずっと眺めていた。


出来るだけ早く車を飛ばして病院へ到着。

病院に着くと、スーツ姿の男性が入口まで迎えにて来て樹に声をかける。


「こちらです」


その人に案内されたまま後ろへ着いて、ある病室へ辿り着く。


「樹。私、病室の外で待ってるね」

「あぁ、うん」


樹が病室の中へ入って行くのを見送って、近くのソファーで樹が戻るのをただ待つ。


しばらく待っていると、樹が姿を現した。


「樹・・・大丈夫?」


やっぱり病室から戻ってきた樹は肩を落として元気がない。

そして私の隣りに静かに腰を下ろす。

座ったまま俯いてる樹に声を掛けず落ち着くまで黙って見守る。


「親父さ・・」

「うん・・」


ようやく口を開いて話し始めた樹に返事をする。


「少し前から調子悪かったみたいで。まぁ、そこそこ歳だから何かあってもおかしくないんだけどさ・・・。持病も持ってるし、しばらくは仕事せずに安静にしてろって医者から言われたみたいで」

「そうだったんだね・・。命には別条はないの・・?」

「あぁ、うん。それは大丈夫みたい」

「よかった・・・」

「透子さ。病室の前で親父の名前見た?」

「ん?いや、そんな余裕なかったし、特に意識して見てなかったけど・・なんで?」

「親父の名前。東条雄一郎。聞き覚えない?」

「東条雄一郎・・・」


この名前・・・え?


「うちの会社の社長・・・だよね?」

「そっ。うちの会社の社長の東条雄一郎」


まさかここで、うちの社長の名前が出てくると思ってなくて、ちょっとパニック。


「え・・・ちょっと待って。うちの会社の社長が倒れて、それで樹のお父さん・・?」

「ビックリした?」

「そりゃそうでしょ。いろいろ情報量が多すぎてちょっと整理出来ないんだけど・・」

「だよね。いきなり言われてもビックリするよね」

「うん・・。でも、名字違うよね?」

「あぁ。両親離婚してさ。オレ、母親側の名前なんだよね」

「あっ、そうなんだ・・」

「オレ、親父厳しい人だから苦手で、母親のが好きで母親に引き取られてさ。学生時代は母親と一緒に暮らしてたんだけど、親父もまぁ歳とってきて、実際子供もオレしかいないからさ。結局会社はオレに継がせたいみたいで」

「うん・・・」

「学生ん時はさ、母親側で好きに過ごしてたんだけど、結局社会人になってからは、会社継がせるために、この会社に入社させられて。でもまだオレにはその重圧がプレッシャーで嫌でたまらなくてさ」

「だから、新人研修の時、あんな感じでやる気なかったの・・?」

「そっ。まだあの時は無理やりここに入れられて、やる気なんて全然なかったから」

「そっか、そういうことか・・」


少しずつ昔の樹の過去と現実が繋がっていく。


「親父も一人前になるまでは当然この会社を継がす気もないからさ。甘やかさない為に、名前も母親側の名前そのままで、皆にバレないように親子ってこと隠して」

「なるほど。それで名前違うままなんだ」

「昔から親父の一言で離婚して家族も離れ離れになって。なのに会社は継げって言われて、ずっとオレの自由もなく束縛されて親父が用意したレールを歩いていくだけ」


樹から明かされていく今までのこと家族との確執。

私は何も答えられず、ただ聞くだけしか出来ない。


「でも当然オレには逆らえる力もないから言う事聞くしかなくてさ。まぁだからと言って他にやりたいことあるとか特にそういうモノもなかったし」

「うん」

「まぁオレが我慢して言うこと聞いてれば丸く収まるんだろなって思ってた」


樹がずっと胸に秘めてたことは、これだったんだ。

誰にも言えない重圧と責任を、今までもこれからも背負わされる現実と、ずっと向き合っていたんだ。


「でもさ。そうじゃないのかなって思ったんだ。あの日、透子に出会ってから」

「私?」

「そう。『自分に嘘はつきたくない。だから自分をもっと好きになりたい』って言ったあの言葉。オレはその時までは自分に嘘ついて誤魔化して、好きな自分なんてどこにもいなくて生きて来たから」

「ずっと・・そんな寂しい生き方だったの?」

「まぁね。それが親のためになるとも思ったし、それがもうオレの使命なんだろうなとも思ってたし」


私と出会うまでは、樹はそんな諦める人生を過ごして来てたんだ。


「でもさ。自分が犠牲になるんじゃなく、もっと違う方法があるんじゃないのかなって思い始めた」

「違う方法?」

「オレも親父も会社も犠牲にならない方法。オレも親父も皆が自分を好きでいられる方法が何かあるんじゃないかって」

「皆が?」

「そう。だから、とりあえずオレは今までの自分を変えて仕事で業績を上げて来た。それによって会社の利益にも貢献出来るし、それによって自分も好きになれる」

「なるほど・・・」

「でも今までの業績なんて、親父にしたら大したことないらしくてさ、まだまだ認めてくれようとはしないんだけど」

「今までの業績でも?」

「まぁ、親父にしたら今の会社を一代でここまでの大きさまで成長させた自負もあるんだろうね。その会社を任せられるように、多分オレを一人前になるまで厳しく育てたいんじゃないかな」


確かにここまでこの会社が名を挙げたのは、並大抵の努力じゃないはず。

私もここに入社したきっかけは、ここまでたくさんの人を幸せに出来る商品を世に送り出している世界に憧れたから。


「素敵な会社だもん。たくさんの人が幸せになれる商品をこんなにも作り出してる」

「透子もそういうのに憧れてこの会社に入ったの?」

「うん。だってさ、自分の手掛けた商品を手にして、たくさんの人が幸せになったり笑顔になってくれるって素敵なことじゃない?」

「透子らしいね」

「学生時代からさ、ここの会社の商品が好きで、お金貯まったら少しずつ集めていってたんだよね。だからこの会社で働けた時も、今度は自分がその商品を手掛けていけるってなった時もホント嬉しかった」

「そっか・・。そんな前から透子もこの会社の商品に関わってたんだ」

「ホントだね」

「じゃあ、オレ達はそんな前から繋がってて出会う運命だったってことか・・」

「そうだね」

「そっか・・。じゃあ、親父がこの会社を作ってくれたことで、オレは透子に出会えたってことか・・・」

「ホント、だ・・。それ、すごいね」

「なんなんだよ。やっぱオレ親父に頭上がらないじゃん」

「あのネックレスも、私にとってはこの会社の商品と同じくらい力をもらえて勇気もらえたモノ」

「あれ・・。あっ・・そっか。マジか。そんなところも・・・」

「ん?」

「いや・・こっちの話」

「でもさ。樹がそうやってご両親のために尽くして来たことがさ。こうやってどこかに繋がってるんだよね。樹がちゃんと裏切らずにいてくれたから、私は樹と出会えた」

「そっか・・・。違う道をオレが行ってたら、透子には出会えなかったってことか」

「うん。多分ね。年齢も環境もこんなに違う樹と私では、多分この会社でなきゃ交われない関係だったと思う」

「こわっ・・。透子と出会ってないオレとか想像したくないんだけど」

「だからさ。どんなことでも今そこにいる意味ってあると思うんだよね」

「でも・・・。多分オレは今みたいな状況じゃなくても絶対透子探し出して出会ってると思う」

「フフッ。それ笑い飛ばしたいとこだけど、偶然。私もそう思う。樹とはなんかどんな形でも出会えるような気がする」

「でしょ?やっぱ気合うじゃん」

「だね」

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