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コメント
1件
うわ、この回めっちゃ良かった……!千代が子供達に囲まれて照れてるの、ツンデレすぎてかわいすぎるだろ。耳触られて「ひゃっ!?」は声出して笑ったわ。しゆらまで同じ反応してて草。夜哭きの森の魔獣との共存風景もすごく温かくて、研究所の対比が効いてた。逃げ場なくて不安なはずなのに、焚き火の周りで笑う子供達見てこっちまでホッとした。続きめっちゃ気になる🔥
「だから解せぬのじゃ……」
千代が何度目か分からないため息を吐く。
だが、その声にはもう最初のような刺々しさはなかった。
子供達に囲まれながら嫌そうな顔をしている。
それなのに誰も離れようとしない。
本人も追い払おうとしない。
そんな様子を見ていると、本当に嫌がっているわけではないのだろうと思えてくる。
焚き火の向こうでは肉が焼けていた。
脂が火へ落ちるたびに音が鳴る。
その匂いだけで腹が鳴りそうだった。
子供達はもちろん。
ルカも完全にそちらへ意識を持っていかれている。
「まだかな」
「まだだ」
「絶対まだって言う」
「まだだからな」
「つらい」
ルカが真顔で呟く。
隣でしゆらが小さく笑った。
その時だった。
森の奥から何かが近付いてくる気配がする。
だが誰も反応しない。
住人達も。
千代も。
しゆらも。
誰一人警戒しない。
少し遅れて、その理由が分かった。
巨大な影が木々の間から姿を現したのだ。
狼に似ている。
だが狼ではない。
肩の高さだけで大人の胸ほどある。
黒い毛並み。
額から伸びる二本の角。
黄金色の瞳。
明らかに魔獣だった。
しかもかなり強い個体だ。
それでも集落の空気は変わらない。
武器を取る者もいない。
子供達も驚きはするが怯えない。
むしろ。
「あ、おかえり」
そんな声が飛ぶ。
魔獣は返事をするように鼻を鳴らした。
近くを通った子供が毛並みに触れる。
魔獣は嫌そうに耳を動かしただけだった。
さらに別の場所では角鹿が数頭、焚き火の近くで草を食べている。
屋根の上には鳥型の魔獣が止まっていた。
夜哭きの森では、それが当たり前らしい。
半魔と魔獣。
どちらも同じようにそこにいる。
誰も檻へ入れられていない。
誰も鎖を付けられていない。
それなのに争っている様子もない。
不思議な光景だった。
研究所では絶対に見られない。
「珍しいか?」
声が聞こえた。
振り返る。
いつの間に戻ってきたのか、あの白髪の人物が立っていた。
「まあな」
正直に答える。
白髪の人物は少しだけ笑った。
「ここじゃ普通だよ」
その視線が集落へ向く。
焚き火。
住人達。
魔獣達。
そして騒ぐ子供達。
「人間の街では犬や猫が歩いてるでしょ」
「そうだな」
「ここでは魔獣が歩いてるだけ」
さらりと言う。
だが。
その言葉の意味は思ったより重かった。
研究所の人間が聞けば笑うだろう。
ありえないと否定するだろう。
だが現実に目の前で成立している。
その時だった。
先程の狼型の魔獣がこちらへ近付いてくる。
別に珍しいことではないらしい。
住人達は誰も気にしていない。
魔獣は予紬の前まで来ると、そのまま腰を下ろした。
近い。
かなり近い。
だが敵意は感じない。
しばらくすると、その視線がシエルへ向く。
シエルも薄く目を開けた。
そして。
弱々しく尻尾を振る。
狼型の魔獣が鼻を鳴らす。
挨拶だったのかもしれない。
二匹はしばらく無言で見つめ合う。
それだけだった。
だが不思議と会話しているようにも見えた。
「仲良しなんですか?」
しゆらが聞く。
白髪の人物は首を傾げた。
「仲良しというか」
少し考える。
そして笑った。
「お互い生きてるのを確認してるだけかな」
その言葉に、なぜか納得してしまった。
魔獣同士には魔獣同士のやり方があるのだろう。
やがて狼型の魔獣は満足したように立ち上がる。
そしてそのまま予紬の横へ寝転がった。
周囲が少し静かになる。
住人達がこちらを見ていた。
「ん?」
理由が分からず見返す。
すると近くの半魔が笑う。
「珍しいな」
「何がだ」
「そいつ警戒心強いんだよ」
別の住人も頷く。
「人間の匂いなんて嫌いなはずなんだけどな」
狼型の魔獣は聞こえているはずなのに反応しない。
ただ大きな欠伸をする。
その様子を見ていた白髪の人物が小さく笑った。
「魔獣って案外単純だから」
そう言いながらシエルの頭を撫でる。
「敵かどうかくらいしか見てないよ」
夜風が吹く。
焚き火が揺れる。
魔獣達は変わらずそこにいた。
半魔達も変わらず笑っている。
その光景を見ながら、少しだけ思う。
もし研究所の連中がこの景色を見たら、きっと信じないだろうな、と。
焚き火の向こうで笑う子供達を眺めながら、そんなことを思う。
研究所が燃えてから、まだ一日も経っていない。
住む場所を失った。
追われる身になった。
明日どころか数時間先のことすら分からない。
それでも子供達は笑っていた。
夜哭きの森の空気がそうさせるのか、それともようやく生き延びた実感が湧いてきたのかは分からない。
ただ少なくとも、地下施設から逃げ出した直後のような張り詰めた顔はもう誰もしていなかった。
その中心にいるのが、なぜかあの少女なのだから面白い。
少し前まで人間を罠に嵌め、こちらへ槍を向けていた相手とは思えないほど、子供達は遠慮なく少女へまとわりついていた。
最初は本当に些細なことだった。
研究所から逃げてきた小さな女の子が、焚き火の近くで座っていた少女の隣へちょこんと腰を下ろしたのだ。
少女も特に追い払わなかった。
無視するわけでもなく、話しかけるわけでもなく、ただ黙って焚き火を眺めていた。
その沈黙を破ったのは女の子の方だった。
「髪、きれい」
ぽつりと零れた一言に、少女の肩がぴくりと揺れる。
焚き火の明かりを受けた赤みがかった黒髪は、夜の闇に溶け込みながらも不思議と目を引いた。
黒髪と言うには少し赤く、赤髪と言うにはあまりにも深い。
炎の揺らめきに合わせて色合いを変えるその髪を、女の子は純粋に綺麗だと思ったのだろう。
「そうか」
返ってきた言葉は短かった。
だが、明らかに照れている。
それが分かる程度には、少女は分かりやすかった。
一人が褒めれば二人目が寄ってくる。
二人になれば三人になる。
気付けば少女の周囲には子供達の輪が出来上がっていた。
「ほんとだ」
「さらさら」
「目も赤くて綺麗」
「角もかっこいい」
好き放題言われるたびに少女の顔が微妙に険しくなる。
だが怒っているわけではない。
どう反応すればいいのか分からず困っているだけだ。
だから余計に子供達は遠慮を失う。
腕へ抱きつく子供が現れ、肩へ寄り掛かる子供が現れ、しまいには黒曜石のような角へ興味津々に手を伸ばす者まで現れた。
「触っていい?」
「よくない」
「なんで?」
「なんでもじゃ」
「少しだけ」
「駄目じゃ」
口では拒否している。
だが本気で止める気はないらしい。
結局その数分後には、角を触る順番待ちまで発生していた。
その様子を見ていたしゆらが小さく笑う。
「人気ですね」
「解せぬ」
「綺麗ですし」
「解せぬ」
「優しいですし」
「解せぬ」
返事は同じなのに、耳だけがどんどん赤くなっていく。
ルカはそれを見て吹き出していた。
「絶対照れてる」
「照れておらぬ」
「照れてる」
「照れておらぬ」
「耳赤い」
その瞬間、少女がぴたりと黙り込んだ。
図星だったらしい。
子供達は大笑いし、しゆらまで肩を震わせている。
そんな騒ぎの中で、一人の女の子がふと首を傾げた。
少女の髪を見ていた視線が少し上へ移動する。
そして何かを見つけたように目を丸くした。
「あれ?」
その声を聞いた瞬間だった。
少女の表情が変わる。
今までの困惑とは違う。
もっと直接的な危機感だった。
女の子の視線の先にあるものへ気付いたのだろう。
だが気付いた時にはもう遅い。
「耳」
たった一言。
それだけで子供達の興味が一斉にそちらへ向いた。
少女は反射的に両手で耳を隠した。
あまりにも素早い動きだった。
まるで弱点を見つけられた獣みたいに。
当然ながら、その反応は逆効果だった。
子供達の目が輝く。
触られたくない場所なのだと、自ら教えてしまったようなものだった。
「なんで隠すの?」
「気になる」
「見せて」
「駄目じゃ」
即答だった。
だが子供達は引かない。
むしろ今まで以上に食い付いていた。
少女は後退る。
子供達は追う。
軍を迷わせていた半魔が、今は子供達に追い詰められている。
その光景だけで十分面白かった。
「待て」
少女が言う。
「落ち着け」
誰も落ち着かない。
「話し合おう」
誰も話し合わない。
そしてついに、一人の女の子が腕の隙間から手を伸ばした。
少女の目が見開かれる。
間に合わない。
そう悟った顔だった。
小さな指先が耳へ触れる。
本当に軽く。
羽が触れた程度に。
それだけだった。
それなのに。
「ひゃっ!?」
少女の身体が大きく跳ねた。
焚き火の周囲が静まり返る。
本人ですら固まっている。
自分が今どんな声を出したのか理解できていない顔だった。
だが次の瞬間には頬が一気に赤く染まり、その耳まで真っ赤になった。
「い、今のはなしじゃ!」
必死だった。
本気で必死だった。
だがもう遅い。
ルカが吹き出し、子供達が笑い転げ、住人達まで肩を震わせる。
しゆらも例外ではなかった。
「かわいかったです」
追撃だった。
少女が絶望した顔で振り返る。
「お主もか……」
「かわいかったです」
「二回言うでない!」
その叫びで、また周囲から笑い声が上がった。
焚き火の火がぱちりと弾ける。
子供達はまだ笑っている。
少女は顔を真っ赤にしたまま耳を隠している。
しゆらも珍しく声を出して笑っていた。
その横顔を眺めているうちに、不意にさっきの光景が頭をよぎった。
耳を触られただけで、あんな反応をするものなのか。
そう思った瞬間には、もう手が動いていた。
白い髪の隙間から覗くしゆらの耳へ指先が触れる。
柔らかい。
その感触を認識するより早く、しゆらの肩が大きく跳ねた。
抱えられていたシエルまで驚いて顔を上げるほどだった。
「っ……!」
勢いよくこちらを振り返る。
紫色の瞳が大きく見開かれていた。
数秒。
無言のまま見つめ合う。
そして。
しゆらの顔がみるみる赤くなった。
耳まで。
頬まで。
驚くほど分かりやすく。
「予紬さん……」
「なんだ」
「何してるんですか」
「気になった」
正直に答える。
しゆらはしばらく黙り込んだあと、そっと両手で耳を隠した。
「だめです」
「そうか」
「だめです」
「二回言ったな」
「大事なので」
真面目な顔で返してくる。
だが耳はまだ真っ赤だった。
その様子を見ていたルカが腹を抱えて笑い出す。
「しゆらも同じだった!」
「ルカは黙っていてください!」
即座に返ってきた言葉は、少しだけ裏返っていた。
千代はそんな二人を見比べると、深いため息を吐く。
「お主らまで何をしておるのじゃ……」
呆れたような声だった。
だが口元は少しだけ緩んでいる。
そのことに本人は気付いていないのだろう。
夜哭きの森の夜は静かに更けていく。
子供達の笑い声。
焚き火の音。
眠そうに欠伸をする魔獣達。
研究所では決して見ることのできなかった穏やかな光景が、そこには確かに広がっていた。