テラーノベル
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初めて、あいつを見たのは、まだ冬の終わりだった。会議室の隅で、誰とも話さずに、黙ってノートをめくっていた。
あの細い指が紙をめくるだけで、なぜか俺の喉が渇いた。
「あいつ、可愛い顔してるけど無口でつまんねぇよ」
同じ会社のやつがそういって笑った。
でも俺は笑えなかった。
可愛いとかつまんないとか、そんな問題じゃなかった。
あいつの目が、どこも見てないようで、全部見透かしてる気がして──
たまらなく、怖かった。
それなのに、惹かれてた。
「おい、中国。お前、またあの先輩と喋ってたな」
「……何がいけない。我が誰と喋ろうと勝手だろう」
「いけねぇよ」
ロッカー裏で、壁に押し付けた。
自分の手のひらが震えてるのがわかる。
怒ってるんじゃない。
怖いんだ。
離れていかれる気がして。
「俺以外と喋んな」
「……それは命令か? 付き合ってもいないくせに」
「お前は俺のだろ」
「勝手に所有権を主張するな、ロシア……っ!」
怒った顔も綺麗だった。
それがまた腹が立って、たまらなくて、
その唇に噛みついた。
中国は抵抗しなかった。
だけど、目を閉じなかった。
泣きも、怯えも、しなかった。
ただ、黙って、受け入れた。
──それが、逆に怖かった。
「お前、俺がこわいか?」
「……我は、お前に壊される夢を見る」
「壊すつもりなんか──」
「ない? ほんとうに?」
そのときの中国の声が、やけに静かで。
それがずっと、耳の奥に残ってる。
壊すつもりはなかった。
ただ、「自分のもの」にしたかっただけだ。
でも、あいつがどんどん壊れていって、
笑わなくなって、
目を逸らすようになって、
やっと、俺は気づいた。
──あのときから、もう全部、間違ってたんだ。
今、既読すらつかない中国の「寒い」のメッセージを見ながら、
俺はスマホを握ったまま、動けなかった。
あのとき、どうすればよかった?
あいつが震えていたときに、どうやって、あっためればよかった?
分からない。
分からないまま、大人になった。
愛し方を間違えたまま、ここまで来た。
──守ってるつもりだった。
けどたぶん、それは
ただの「拘束」だった。
コメント
4件
サムネからもう癖だあああああそして内容も癖だああああ(尊タヒ)
くぁw背drftgyふじこlp;@:「」(?) スゥ-ッッッ、神様ですか?