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「守ってるつもりだった」そう、ずっと思ってた。
俺なりに考えて、
そばにいて、
背中をさすって、
食えるものを探して、
眠れぬ夜を共にして。
でも──それは、
中国にとっては“支え”になっていなかったのかもしれない。
中国は、何も言わなくなった。
目が合っても、すぐに逸らされる。
手を差し伸べても、触れ返してこない。
「大丈夫か?」と声をかけても、返事は曖昧な笑みか、
かすかな首の傾きだけ。
それが俺には、怖かった。
拒絶されてるわけじゃない、
でも──
求められているとも思えなかった。
ある夜、つわりの気持ち悪さで、吐き戻した後の床を拭いていた中国の背中を見て、
俺はやっと、自分が「何もできてない」ってことを痛感した。
支えてるつもりだった。
でも、彼の痛みの深さを、
俺はちゃんと見てなかったのかもしれない。
「中国、床は俺がやる。立つな、横になってろ」
そう言っても、彼はかすかに眉を寄せて、
「……我がやる」
そう呟いただけだった。
その“我が”という言葉の、かすれた響き。
かつての自信に満ちた声じゃない。
責任感に支配されて、苦しみに縛られて、
自分を罰するみたいな声だった。
布団に戻った中国は、もう目を閉じていた。
でも、眠れてるわけじゃないのは分かってた。
呼吸が浅い。
何度も喉の奥で咳き込んで、
痛みに耐えている音がする。
俺はただ、その布団の脇にしゃがんで、
背中を撫でるしかできなかった。
「俺がやるから」じゃ、
もう彼には届かないのかもしれない。
“守ってるつもり”は、
本当にただの「つもり」だったのかもしれない。
中国は今、
この部屋のどこにも心を置いていない。
体はそこにいるのに、心はとても遠い。
俺のそばにいるのに、
もう──どこにもいない。
その夜、
吐き気と苦しみで丸くなってる中国に、
俺は初めて、そっと背中越しに言った。
「俺、どうしたらいいんだろうな」
彼は動かなかった。
まるで“答える体力すら残っていない”かのように。
でも、俺はあえて言葉を続けた。
「お前が泣いてる時、
どうしたら……止められるか分からないんだ」
息が詰まりそうだった。
たぶん俺の方が、泣きたかったのかもしれない。
それでも、中国の背中に向かって続けた。
「もっとちゃんと、痛みを分かち合いたい」
でもその願いは、
どこにも届かないまま、
夜の静けさに沈んでいった。