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君にだけ、氷の微笑

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君にだけ、氷の微笑

5 - 第4章:小さな嫉妬

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2025年09月30日

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氷室と一緒に掃除をした数日後の昼休み、担任に頼まれたプリントを職員室に届けに行く途中、廊下の角を曲がったそのときだった。

「……氷室くん、呼び止めてごめんなさい。でも、どうしても渡したかったの」


女子の声が耳に聞こえてきて、思わず足を止める。柱の陰から覗いた先には、女子生徒が一枚の封筒を差し出し、それを前に立つ氷室がじっとそれを見つめていた。


窓の外には、銀杏の葉がひらりと落ちていく。秋の静けさの中でふたりの姿だけが、映画のワンシーンみたいに切り取られたみたいだった。


「君の気持ちはありがたいけど、それは受け取れない。ごめん」


氷室の声はいつもどおり静かで、表情もまったく変わらなかった。けれど、ほんの少しだけ——優しく聞こえた気がした。まるで、自分にだけそう聞こえたかのように。


女子生徒は深く頭を下げ、駆け足で立ち去って行った。氷室は手ぶらのまま、ゆっくりと職員室の方向へ歩き出す。


(……断ったんだ)


ホッとしたはずなのに、胸の奥がちくりと痛んだ。どうしてそんなふうに感じたのか、自分でもわからないままだった。


教室に戻ると林田が俺を見つけて、大きく手を振った。


「よう奏、おせーぞ。どこ行ってた?」

「職員室。担任に頼まれたプリントを届けに」


適当に答えつつ席に着く。さっきの場面が頭から離れない。


「なあ、さっきさ氷室のヤツさ、女子に告白されてたっぽくね?」

「林田……あれを見てたのか?」

「たまたまな。しかも断ってたけどさ。まあアイツは、そこら辺の女子と付き合うタイプじゃねーよ。なんつーか、女子のことに興味なさそうっていうか……選り好み激しそうじゃね?」


林田の何気ない言葉に、なぜか心がざわつく。


「別にどうでもいいし。俺には関係ない」

「……ほーん?」


林田の意味深な視線に、思わず目を逸らしながらペットボトルのお茶を飲もうとしてタイミングをしくじり、激しく咳き込んだ。ドジは相変わらず健在の俺、虚しすぎる……。


放課後、少しだけ遅れて図書室に向かう。返却期限の本を返そうとしたとき、また氷室の姿を見つけた。窓際の席に座る彼の横顔は、夕日に縁取られてどこか儚げに見えた。


「あ、氷室……」


声をかけると、氷室は顔を上げて小さく頷いた。


「……葉月、どうした?」

「え?」

「今日は、あんまり喋らないから」


どうやら、気づかれていたらしい。


「……別に。ちょっと考えごとをしてたんだ」


素直に答えた自分に驚きながら、カウンターにいる図書委員に本を返却する。


(――俺、なにを考えてたんだろう)


さっきの女子のこと? それとも手紙の受け取りを拒否ったときの、氷室の声の柔らかさ?


図書室を出るとき、背後から静かな声が聞こえた。


「葉月、また明日な」


振り返った先にいた氷室が、僅かに笑っていた。その笑みの向こう、窓の外では赤く色づいた夕焼けが広がっている。


(氷室が見せた、あの微笑が——俺だけのものじゃなかったらどうしよう)


そんなことを考えてしまう自分に、ちょっとだけ驚いてしまった。けれど氷室が見せた微笑は、秋の空よりも温かくて。それがほんの少しだけ嬉しかった。

君にだけ、氷の微笑

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