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✧≡≡ FILE_033: ≡≡✧
「ローライト、きょうはいい日だな」
「はい、そうですね」
「日が……出てるな」
「そうですね」
「……」
「……」
「……ローライト……」
「はい」
「今日は……いい日だな」
「……」
「……なぁ、ローライト」
「はい」
「……光が……きれいだな」
「はい」
「まぶしいな」
「……はい」
「……光って、あたたかいな」
「……」
「なぁ……お前は、光が怖くないのか?」
「……こわくないです」
「そうか……お前は、強いな」
「……」
「俺は、光が怖いよ。ずっと怖い。……俺を全てのみ尽くしたものだから……」
「……」
「なぁ、ローライト。お前の母さんも、こんな日差しの中で死んだんだ」
「……」
「……綺麗な光だったのに……」
「……」
「なんで、死んでしまったんだろう……」
「……」
「なぁ、ローライト。お前、昨日は何食べた?」
「スープです」
「スープか。……そうか、スープ。スープは……うまかったか?」
「……はい……」
「……そうか。スープは、いいな。……スープは、温かい」
「……」
「ローライト……スープ、あるか?」
「もう、ありません」
「そうか……そうか……」
「……」
「なぁ、ローライト」
「はい」
「俺は、最近ずっと眠いんだ」
「ねたらどうですか?」
「寝ても、夢を見ないんだ。……あの子も、出てこない」
「……」
「なぁ……俺、いつからここにいるんだ?」
「……わかりません」
「そうか。そうだよな。俺もわからない」
「……」
「今日、何日だ?」
「……しりません」
「……そうか……知らないか」
「……」
「……ローライト」
「はい」
「今日……いい日だな」
「……」
「……いい日だ」
「……はい」
「日が出てる」
「はい」
「まぶしいな」
「……はい」
「光が、きれいだな」
「……」
「まぶしいな……」
「……」
「なぁ、ローライト」
「はい」
「──なんでお前だけ生き残ったんだ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「なんで……」
「……」
「なんでお前は……」
「……」
「俺の子じゃないんだ……」
「……」
「なんで、俺の子じゃなかったんだ……」
「……」
「どうしてお前だけ生きてるんだ……」
「……」
「お前を見てると苦しい……」
「……くるしい?」
「……二人の死骸を見てるようで……」
「……」
「……何より、お前が父親そっくりなのが……どうしようもなく苦しい……」
「……」
「生きてるのに、死んでるように見える……。死んでるのに、生きてるように感じる……。お前は……“死の続き”にしか見えない」
「……」
「お前を見るたびに、思い出すんだ……あの光、あの匂い、あの焦げる音……」
「……」
「お前は、あのとき燃えた胎の中で──母親の死体を踏み台にして、生まれてきたんだ」
「……やめて、ください……」
「俺は全部見たんだ 肩が裂けて、臓器が溶けて……それでもお前だけが生きた」
「やめてください……」
「生まれた瞬間、母親の体温を奪って、お前は息を吸った!!」
「やめてください!!」
「俺がどれだけ望んでも、何ひとつ残せなかったのに! お前は全部持って生まれてきた!!!」
「……」
「愛される資格もないのに……生きる資格もないのに……なんで、そんな顔で俺を見るんだ……」
「……」
「……お前の母親と結婚するのは、俺のはずだったのに」
「……」
「ほんとうは、そうなるはずだった。……あの人の隣に立つのは、俺で……あの人の笑顔を受け取るのも、俺の役目だった」
「……」
「でも、できなかった」
「……」
「“子供がほしい”って、笑って言ったあの顔を見た瞬間……何も言えなくなった」
「……」
「抱きしめることも、手を伸ばすこともできなかった。……“付き合ってください”の一言さえ、喉の奥で腐っていった」
「……」
「だって、俺は──“被爆者”だから」
「……」
「医者に言われたんだ。“精子は死んでる”って」
「……」
「“子供は望めません”って」
「……」
「その瞬間、俺は“男”じゃなくなった。……“父親”にも、“夫”にもなれないと知った」
「……」
「だから言えなかった。……“好き”だなんて……言えなかった」
「……」
「あの人は、俺が黙って笑ってるのを、“優しさ”だと思っててくれたのに──」
「……」
「でも、あいつには──気づかれてた……」
「……」
「後悔してる。……何もかも、生き方全てに」
「……」
「……お前が白い服を着てると……結婚式のドレスを思い出す」
「……」
「まぶしかった……俺にはまぶしすぎた……」
「……」
「お前の父親があの人を抱きしめた時、あの人に指輪を授けた時……あの人にキスをした時……俺はこの手をポケットに突っ込んで……自分の爪が血が出るまで掌に食い込むのを、我慢してた」
「……」
「それでも、笑って見てた。笑って、見送った。……その罰が今なんだろうな」
「……」
「俺が卑怯で、弱くて、嘘つきだったから……」
「……」
「罰が当たったんだ」
「……」
「お前が生まれて、あの人が死んで……俺だけが生き残った」
「……」
「なのにお前は、俺の子じゃない」
「……」
「お前の顔は俺に似ない……」
「……」
「どうしてあの人に似なかったんだ」
「……」
「──お前に“ルミエル”って名を、つけようと思ったことがある……」
「……」
「でも、つけられなかった」
「……」
「俺にとって光は罪の名前だからだ」
「……」
「俺が、あの人を焼き殺したあの光の中で──生き残ったお前に、“光”の名なんて、つけられるはずがなかった」
「……」
「呼ぶたびに、思い出すだろう。……あの眩しさを。……あの人の肌が、光に溶けた瞬間を」
「……」
「……名前と顔ってのはな」
「……」
「どちらも、“親からもらうもの”なんだ」
「……」
「人間として生まれて、最初に授かる“愛の形”だ」
「……」
「この世に出てすぐ、最初に与えられる“証明”だ。……お前は、誰かに“名を呼ばれ”、誰かに“顔を見つめられて”初めて、人間になる」
「……」
「でも──お前には、そのどちらも存在しない」
「……」
「母は名を呼ぶ前に死んだ。……父は顔を見る前に焼けた」
「……」
「だからお前には、“始まり”がない。……名前を呼ぶ声も、顔を撫でる手も、どこにも存在しない」
「……」
「生まれた瞬間から、愛の形を奪われた子供だ」
「……」
「愛されるために生まれたのに、誰もお前を抱かなかった。……誰も“おめでとう”って言わなかった」
「……」
「それがどれほど残酷なことか……お前はまだ知らない」
「……」
「愛を知らずに生きるというのはな……死なないことより、ずっと重い罰なんだよ」
「……」
「お前は、生きながら光に焦がれる……」
「……」
「“光”って名を与えられなかった俺の罪のかたちだ」
「……」
「もし俺が、あの人と結婚していて……俺の子だったら、どれほど、可愛かっただろう」
「……」
「……どれほど、愛してやれただろう」
「……」
「だけどそれは全部、“もしも”だ。……現実には、愛も、名も、顔も、もう存在しない」
「……」
「お前は、愛を貰えなかったまま、生き残った」
「……」
「──“罪な存在”なんだよ」
「……」
「……」
「……キリスさん」
「……なん、だ」
「わたしは、うまれてきてよかったとおもいます」
「……」
「おかあさんが、しんだひかりのなかに、わたしがいたなら──」
「……」
「そのひかりのつづきに、いまもあなたがいるからです」
「……」
「だから、わたしは“罪”じゃない」
「……」
「あなたがまだ、いきている“りゆう”です」
「……」
「キリスさん──」
「……」
「ひかりは、こわくありません」
「……」
「だって、わたしが、あなたをてらせるから」
「……」
「──それだけで、うまれてきた意味があるとおもうんです」
「……」
「……」
「……ローライト……」
「はい」
「……お前は……ほんとうに……」
「……」
「……まぶしい……」
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