✧≡≡ FILE_034: 喪失 ≡≡✧
ローライトが、八歳になった朝。
──あさ、だった。
いつもの。
はずの。
めをあける。
しずかだ。
きょうは……
いつもより
すんでいる。
なにかが
ないような
きがした。
カーテンは
とじたまま。
廊下の、おとなりの、いつもの
あしおとが──
……きこえない。
「……キリスさん」
こえは
しずんだ。
かえって
こなかった。
毛布のぬくみがすうっときえて、
ローライトははしりだした。
書斎。
──いない。
キッチン。
……いない。
温室。
…………いない。
ガレージ。
……………………いない。
「……キリス……さん……?」
こたえは
どこにも
なかった。
だれも
いなかった。
ひとりしか
のこっていなかった。
リビング。
机のうえに、しろい山。
ふくれた封筒が
つみあがっていた。
一つ
ひらく。
さつたば。
つぎも。
さつたば。
そのつぎも。
さつたば。
さつたば。
さつたば。
息が
どこかで
ちぎれた。
──机の上、一枚だけ、
うすい紙。
ゆっくり
ひらく。
たった
いちぎょう。
──ローライトへ。
落とした紙の音が
やけにひびいた。
ローライトは
そのばにくずれこんだ。
ひざをかかえ、息が詰まる。
手が、
じぶんの喉を
つかんでいた。
つめが、
かわを
きるほどに。
──どうして。
──どうして
これだけ。
──どうして
なまえじゃなくて
かねをおいていった。
──どうして
つれていって
くれなかったの。
──どうして
さいごまで
“たにん”
だったの。
しろい
ひかりが、
カーテンの
すきまから
ながれこんだ。
ひかりの
なかで、ただ一言うかびあがる。
──ローライトへ。
その
ひとことだけが、
ちいさな胸の
ぜんぶを
やいた。






