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三枝葵が、静かに変わっていった。
投稿の回数が減った。
声をかける人が減った。
笑顔の持続時間が短くなった。
「どうしたの?」「元気ないね?」
そう訊かれるたび、彼女は決まって言った。
「大丈夫。私、弱いの慣れてるから」
その言葉が、本当はどれだけ弱いか。
彼女自身が一番、わかっていたはずだ。
⸻
私は、最後の一手を打った。
匿名アカウントで、彼女の投稿にコメントした。
《あなたが“自立してる”って思われたい理由、
全部「誰かに嫌われたくない」からじゃない?》
投稿は、30分後に削除された。
次の日から、彼女のストーリーは更新されていない。
⸻
放課後。
私は教室の窓際で、何も考えずに空を見ていた。
**“次”**を探すわけでもなく、ただ――静かに、無感情で。
そこへ、西園寺が来た。
いつものように、無音で隣に座る。
「三枝さん、休みだってさ」
「ふーん」
「“サバサバ系の仮面は、割れたら中身グチャグチャなんだね”って君、思ってる?」
私は言葉を返さなかった。
でも、西園寺は勝手に続きを言った。
「ねぇ。
君ってさ、人を壊す時だけ“生きてる”よね」
⸻
生きてる、か。
そんなふうに思ったことは、一度もなかった。
けど、もしかしたらそれが答えなのかもしれない。
私は、生きるために壊してる。
他人の感情を引き裂く瞬間だけ、
自分が存在してる気がする。
⸻
西園寺が言った。
「本当は、**“頼られたかった”**だけじゃないの?」
「…は?」
「君の過去、知らないけど。
**“自分が弱音吐いたとき、誰にも拾ってもらえなかった”**経験、あるんじゃないの?
だから、そういう人間を見つけては潰してるんじゃない?」
その瞬間。
一瞬だけ、呼吸が止まった。
⸻
私はすぐに笑ってごまかした。
「ずいぶん深読みするんだね。
観察マニアくん」
「違うよ。
君は他人を**“切る”**のは上手だけど、
“自分が切られる”のは怖いんだ。
だから、先に全部壊す。誰にも届かれる前に」
彼の目がまっすぐ私を見ていた。
静かで、強くて、どこまでもまっすぐだった。
私はその目を、直視できなかった。
⸻
夜、三枝葵のSNSアカウントが消えていた。
LINEのステータスも“非公開”になった。
誰もその理由を知らない。
でも、私は知っている。
私が、壊した。
⸻
誰にも求められなかった自分の感情を、
今、他人にぶつけているのかもしれない。
⸻
私は、感情を殺したはずだった。
けれど――それすらも嘘だったのかもしれない。