テラーノベル
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翌朝。
ついに、真理子のデイサービス通いが始まる日がやってきた。
「それじゃあ、行ってくるわね!」
「あ、うん。気をつけてね。何かあったら施設のスタッフさんに言うんだよ」
「わかってるわよぉ。お友達、たくさんできるかしら」
迎えに来てくれた『おひさま』のスタッフの車に、真理子はあっさり、そして嬉しそうに乗り込んでいった。
もっと渋ったり、不安がったりするのではないかと身構えていた柊吾は、拍子抜けしたまま遠ざかる送迎車を見送った。
「……行っちゃった」
パタン、と玄関のドアを閉める。
静まり返った部屋。いつもなら真理子がテレビを見ながら独り言を言ったり、うろうろと部屋の中を歩き回ったりしている時間だ。
(これから夕方まで、僕一人……か)
四年間、一時も離れずに母と過ごしてきた柊吾にとって、ぽっかりと空いた「自分だけのための時間」は、どう使えばいいのか分からないほど巨大だった。手持ち無沙汰に指先をもてあそびながら、柊吾はしばらくリビングの真ん中で立ち尽くした。
とりあえず溜まっていた洗濯物を洗い、掃除機をかけ、朝食の洗い物を片付ける。それでもまだ、時計の針は午前十時を回ったばかりだった。
ソファにどさりと腰を下ろす。
静かすぎる部屋で一人きりになると、どうしても考えてしまうのは——。
(……黒瀬さん、今頃どうしてるかな)
無意識のうちに、またあの人のことを考えている自分に気づき、柊吾は両手で顔を覆った。
あれからずっとベランダに出てこない瑞樹。嫌われたかもしれないという不安。謝らなければという焦り。
どうすればいいのか分からず、ぐるぐると堂々巡りの思考を繰り返していた、その時だった。
――コトン。
壁の向こうから、かすかに何かがぶつかるような物音が聞こえた。
(え……?)
柊吾は顔を上げ、隣の部屋と接している壁を見つめた。
今日は平日の午前中だ。普通なら仕事に出ている時間だが、瑞樹の仕事はシフト制の介護士だ。土日休みとは限らない。
(もしかして今日、休み……?)
いる。壁のすぐ向こうに、瑞樹がいる。
そう気づいた瞬間、柊吾の心臓が早鐘のように打ち始めた。
(……謝るなら、今しかない)
これ以上、この気まずい状態を引きずるなんて絶対に無理だ。嫌われたままでいるなんて、耐えられない。
柊吾は弾かれたようにソファから立ち上がった。心臓がまだ痛いくらい脈打っている。それでも、無意識のうちに姿見で前髪を整え、服のシワを伸ばしてから、吸い寄せられるように玄関へと向かった。
コメント
1件
うわあ、柊吾の「一人きりになった時の戸惑い」がすごく胸に響きました。四年間ずっと一緒だったお母さんが急にいなくなる不安と、でもそれを機に黒瀬さんへの気持ちに正面から向き合おうとする決意…。最後の「前髪を直して服のシワを伸ばす」仕草に、恋する人間のリアルが詰まってて、思わず応援したくなりました。次が気になります!
そあふぃー
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