テラーノベル
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渋谷の雑踏を抜けると、ビルの谷間にポツンと「地下シアター428」と書かれた小さな看板。その下に、地下へと続く細い階段が口を開けていた。
その日、そこで行われるお笑いライブは、若手芸人たちの登竜門。前半一部は一般人でも出場できるエントリー制のフリーライブ、後半二部からは事務所ごとに芸人が登場する。
宇津久芸能の新人コンビ「イナリズシ」。
彼女たちに与えられたのは――二部のトップバッター。
舞台袖のバックヤードで、寿司子はネタ帳を見つめながら何度も小さく呟く。
「……私は“寿司子”。軍艦巻きの海苔とシャリの間に生きる女です……」
声はかすかに裏返り、手は冷たく震える。
「お、お、落ち着きや、寿司子。れ、練習通りやったらええんや…」
リコは笑顔で気丈に言ったが、握った拳は白くなっている。
カーテンの向こうからは、一部を観覧している観客のざわめきと拍手。
笑いもあれば、シーンとした空気もある。
それが二人の心臓をさらに高鳴らせた。
「……なぁ寿司子、ほんまにウチら大丈夫やろか…」
「大丈夫…失敗しても……最後に二人で笑えばいい」
寿司子の言葉に、リコは吹き出す。
「ウチらが笑ってどないすんねん!
……でも、ええな、それ。腹くくったわ」
第二部が始まり、司会役の中堅芸人がステージ上で観客を盛り上げている。
やがて、スタッフの声が響く。
「イナリズシさん!出番です!」
二人は顔を見合わせ、拳を軽く合わせた。
「リコ、行くよ」
「おう、ツメ跡残したる」
「本日初舞台!鮮度抜群女子コンビ、イナリズシ〜っ!」
司会がはけて、ステージ上をライトが一斉に照らし出す。
眩しい舞台の中央、二人はマイクの前に立った──。
続く
コメント
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