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「映山紅さん……」
「私は馬鹿だ!」
完膚なきまでにメガネを破壊した次は、向かい合わせにくっつけていた二つの机を蹴り飛ばした。まだ椅子に座っていた僕も吹っ飛んだけど、彼女の机の上のお弁当が宙を舞い中身が教室の床にぶちまけられた。よく見ると、僕の弁当箱まで巻き添えを食らって床の上で逆さになって転がっていた。
「私は頭がおかしい!」
彼女は蹴り飛ばした机を頭上に持ち上げて、躊躇なく投げ飛ばした。それにしても、怒りで顔を歪ませた美少女がバンザイの姿勢で机を持ち上げている光景はシュールだ。何もしなければ女神と呼ばれるのに。
自殺騒ぎのとき屋上からぶら下がった僕をずっと片手で支えていたくらいだから、小柄なわりに意外に筋力があるのはよく分かっている。僕は立ちすくんで彼女が暴れまわるのを見守るしかなかった。
そこへ先生たちがなだれ込んできた。教室の異変に気づいた誰かが職員室の先生に知らせたらしい。
よかった。僕はホッと胸をなでおろしたが、なぜか先生に取り押さえられたのは僕の方だった。
「先生……?」
「何もしゃべるな!」
後ろから羽交い締めにされて身動きが取れない。
「また死にたくなって発作的に暴れてしまったんだな。家には連絡した。今日はもう帰って、うちでゆっくり休め」
僕の冤罪を証明できるのは彼女しかいないが、彼女は大泣きしていて、怖かったねと保健室の先生に慰められている。それどころではないようだ。
後ろから羽交い締めされながら階段を降りていく僕を生徒たちがひそひそと話しながら見送っている。
「見せ物じゃないぞ! こっちを見るな!」
と別の先生が怒鳴ったけど、どう見てもいい見せ物だ。中にはスマホで写真を撮って走り去っていく者も。SNSでアップされたりするのだろうか?
僕はクラゲ。波風立てず漂うように生きていたいだけなのに、なぜこんなことに?
僕はすべてをあきらめて、言われたとおりに歩いていった。正面玄関にたどりつき、そこで両親が待っていた。両親は先生たちに頭を下げさんざん謝ってから、僕を車に乗せて自宅に向けて車を走らせていった。