テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜風が少しだけやわらいでいた。
さっきまで張り詰めていた空気が、ゆっくりほどけていく。
それでも屋上の静けさは変わらない。
🤍「……なんかさ」
🩷「ん」
🤍「勇斗って、意外とそういうの気にするんだね」
🩷「そういうのって何」
🤍「呼び方とか」
勇斗は少しだけ目を細める。
🩷「気にするだろ普通」
🤍「普通、かな」
🩷「お前が雑すぎるだけ」
🤍「そう?」
柔太朗は小さく笑う。
その笑い方は軽いのに、どこか優しい。
勇斗はその横顔を見て、少しだけ視線を逸らした。
🩷「……お前さ」
🤍「うん」
🩷「なんでそんな平気そうなんだよ」
🤍「何が?」
🩷「俺のこと」
その言葉に、柔太朗の動きが少し止まる。
夜風が一瞬だけ強くなる。
🤍「……平気じゃないよ」
🩷「え」
🤍「でもさ」
柔太朗は少しだけ空を見上げる。
🤍「怖がっても、変わらないじゃん」
🩷「……」
🤍「だったら、ちゃんと見たいなって思っただけ」
勇斗は言葉を失う。
それは優しすぎて、逆に重かった。
誰にも向けられたことのない種類のまなざしだった。
🩷「……変だな」
🤍「また言った」
🩷「でも事実だろ」
🤍「そうかもね」
柔太朗は少しだけ笑う。
その笑顔を見て、勇斗の胸の奥が静かにざわつく。
逃げたいのに、離れたいのに。
そのどちらもできない距離。
🩷「……なあ」
🤍「ん?」
🩷「もし俺が本当に危ないやつだったらどうすんの」
冗談みたいな声。
でも少しだけ、本気が混ざっていた。
柔太朗はすぐには答えない。
少し間を置いてから。
🤍「そのときは」
🩷「うん」
🤍「そのとき考える」
🩷「適当かよ」
🤍「だって今は違うし」
あっさりした言い方。
でもそこに迷いはなかった。
勇斗は小さく息を吐く。
🩷「ほんと、お前さ」
🤍「なに」
🩷「危機感なさすぎ」
🤍「そう?」
#塩レモン
comi
1,075
にこにこオタク
109
298
🩷「ああ」
少し沈黙。
それから勇斗は視線を落とす。
🩷「……だから危ないんだよ」
🤍「え?」
🩷「いや」
言いかけてやめる。
それ以上言うと、何かが変わりそうだった。
月明かりが、二人の影を少しだけ近づける。
距離はもう、最初よりずっと近い。
でもまだ、決定的には触れないまま。
🩷「なあ、柔太朗」
🤍「ん?」
🩷「今日のこと、本当に忘れるなよ」
🤍「忘れないって」
🤍「勇斗が“柔太朗”って呼んだし」
🩷「そこかよ」
🤍「そこ大事でしょ」
少しだけ笑う。
その笑い声が夜に溶ける。
🩷「……変なの」
🤍「またそれ」
🩷「でも」
勇斗は少しだけ間を置く。
🩷「悪くない」
柔太朗は一瞬だけ目を瞬かせる。
そして小さく笑った。
🤍「じゃあさ」
🩷「ん」
🤍「また来てもいい?」
勇斗は少しだけ黙る。
月を見上げる。
そして。
🩷「……来るなとは言わねぇよ」
🤍「それ、来ていいってこと?」
🩷「勝手にしろ」
🤍「了解」
柔太朗は立ち上がる。
風が少しだけ強くなる。
でも、もう寒くはなかった。
月明かりの下で。
吸血鬼と人間の距離は、
気づかないうちにもう一歩、近づいていた。
コメント
1件
ふわあ……この2人の距離感、すごく繊細でドキドキしました🤍 勇斗が「柔太朗」って呼んだ瞬間、私も心臓跳ねた……。名前を呼ぶって、それだけで特別な一歩なんだよね。それに、柔太朗の「怖がっても変わらないじゃん」って台詞、めっちゃ刺さった。吸血鬼相手にそんなこと言えるの、逆に強いよ……。 月明かりの下で二人の影が近づく描写、映像が浮かんでくるみたいで綺麗だった。続き、すごく気になります🌙